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勇者パーティーを引退して田舎で米と魔王の娘を育てます
勇者パーティーを引退して田舎で米と魔王の娘を育てます
木野裕喜
異世界ファンタジースローライフ
2025年05月29日
公開日
13.6万字
連載中
長田青葉(おさだあおば)は、結婚を諦めたアラサーJA職員。 生涯独身であることに孤独を感じ始め、もふもふに癒しを求めていた矢先、異世界へと召喚されてしまう。 その一年後、青葉は賢者と呼ばれるまでに魔法使いとして成長し、勇者たちと共に魔王を討ち果たす。 しかし、倒したはずの魔王本人から青葉宛てに、個人的な頼み事をされる。 それは、自分の娘を引き取ってほしいというものだった。 あまりにも無茶振り。 人間側からすれば、明らかな討伐対象である魔王の血族を保護したとなれば、自分までお尋ね者になってしまう。旦那様は無理でも、子どもは欲しかったなぁ……という考えの青葉でさえ、さすがに難色を示した。 だが、そんな葛藤を吹き飛ばすほどに、魔王の娘は可愛かった!!! 「私、勇者パーティー抜けるから」 突然の脱退宣言をした青葉は、魔王の娘を連れ、隠れるようにして田舎へと移り住む。 そしたらなんと、魔王軍幹部である四帝獣までついてきて……。 「あれ? なんかこれ、私が魔王みたいになってない?」 多少のイレギュラーはあれど、青葉は異世界の地で、ついに理想の暮らしを手に入れた。 のんびりお米を作りながら、可愛い幼女ともふもふ動物を愛でる ゆる~い物語がはじまる。

第1話 賢者は勇者パーティーを抜けたい

魔王が討伐された。



 長きにわたる魔王軍との戦いの末、勇者一行が、人間たちを勝利に導いたのだ。

 パーティーは、一人を除いて全員が、うら若い女性だったという。


 地母神に愛され、癒しの奇跡を幾度も体現した僧侶は【聖女】と呼ばれた。

 地を砕き、海を裂き、天をく五体を備えた武道家は【拳聖】と呼ばれた。

 異世界の知識を宿し、絶大な魔力を誇った魔法使いは【賢者】と呼ばれた。

 存在自体が光であり希望。伝説の武具を纏いし戦士は【勇者】と呼ばれた。

 彼女たちの強さに比肩する者なし。


 ――だが。

 彼女たちを強者たらしめているのは、個々の能力以上に互いを結ぶ固い絆にあった。


 一人は皆のために。

 皆は一人のために。


 一人の力が仲間の力を何倍にも、何十倍にも引き上げた。その逆もまた然り。

 仲間が一人でも欠けたなら、それすなわちパーティーの死を意味するとまで勇者は語った。

 仲間を心から想う在り方に、人々は憧憬と崇敬の念を込め、彼女たちを英雄と讃えた。


 そして人々は、英雄たちの、さらなる活躍に期待した。

 魔王が討ち果たされたとはいえ、真の平和が訪れたわけではない。結果的に魔王の統制から外れた魔物たちが野に放たれ、猛威を振るうようになってしまったのだ。

 何より魔王軍には、まだ四帝獣と呼ばれる強大な幹部が健在なのである。

 各地に散っていたの者たちが決戦の地に集結していたなら、勇者たちは敗北を喫していたとしてもおかしくはなかった。依然として、予断を許さない状況は続く。


 聖女は言った。

「世界中の民を苦しみから解放する日まで、わたくしたちの旅は続きます」


 拳聖は言った。

「最強の格闘家への道は、まだまだ遠い。あたしより強い奴に会いに行く」


 勇者は言った。

「弱きを助けるのは、力を持った者の使命。ボクたちの戦いはこれからだ」


 賢者は言った。

「私パス。魔王討伐までの約束だったし、田舎に引っ込んで米でも作るわ」


 こうして、勇者パーティーは解散した。



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