目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第14話 『選ばれしひとつの恋、その先に』

 講堂に響く、最後のピアノの旋律。


 俺は、目を閉じてから、ひとりの名前を呼んだ。


「……つかさ」


 その瞬間、目の前でそっと息を呑む音がした。

 手を伸ばすと、指先に、あのやわらかくて温かい手が重なる。


「……ありがとう、ユウトくん」

 微笑むその顔は、少しだけ泣きそうだった。


 けれど、その瞳は誰よりまっすぐだった。


 手を取って、輪の中へと踏み出す。

 優しい光が差すホールで、俺たちはゆっくりと踊り始めた。


 ステップなんて覚えてない。

 でも、それでもぎこちなく足を合わせて、彼女と目を見て。


「……選んでもらえるなんて、思ってなかった」

「そんなわけないだろ。俺、ずっと見てたよ」


 つかさはくすりと笑った。


「頑張ってたから?」

「ううん、“隣にいてくれた”から」


 彼女は、俺が迷ってるときも、傷ついてるときも、

 ずっと、背中を押すんじゃなくて、横に並んでいてくれた。


 ◆◆◆


 曲が終わるころ、他のヒロインたちが、ゆっくりとこちらへ向かってきた。


◆ことのは、笑っていた。

 でもその目は少しだけ潤んでいて、けれど潔かった。

「……私が選ばれなくても、先輩の幸せなら、応援します。

だから……次は、絶対に“奪いに”いきますから」


◆しずくは、目を伏せながら、ただひと言。

「……負けた。でも、好きでいたこと、後悔はしてないから」


◆メイは、静かにお辞儀した。

「ありがとうございました。私の初恋は、ご主人様のおかげで、きれいなままです」


◆つぐみは、小さく微笑んで。

「私も、頑張ります。……次に恋する日のために」


◆あかねは、無理に明るく手を振った。

「ちぇー。まあいいや。次は本気で奪うから、覚悟しとけよなっ!」


◆そして、アオイ。

彼女は、何も言わずに微笑んで、手を振って去っていった。


 誰も責めなかった。

 誰も怒らなかった。

 それが、この恋が“本物だった証”だと思った。


 ◆◆◆


 月曜日。

 文化祭が終わって、いつもの教室。

 でも、なぜか世界がちょっとだけ明るく見えた。


「おはよう、ユウトくん」

 隣の席には、笑顔のつかさ。


「今日からは、“彼氏”って呼んでもいい?」

「照れるからやめて。俺が死ぬ」


「ふふ。じゃあ……彼氏さん」


「やめろぉぉぉっ!!」


 そんな日常が始まった。


 恋が、終わったんじゃない。

 ここからが始まりだった。


 ◆◆◆


 エピローグ


 卒業アルバムに書かれた彼女の言葉


「“選ばれる”だけが恋じゃない。“想ってた時間”があるから、私たちは、前に進める」


 いつかまた、どこかで。

 もう一度、恋が始まると信じてる。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?