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若輩者の執事は可愛いお嬢さまを守りたい
若輩者の執事は可愛いお嬢さまを守りたい
天田れおぽん
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年05月30日
公開日
1.2万字
連載中
 執事見習いのジャービットの勤め先であるファウスト辺境伯家に、可愛い女の子リリアーナが誕生する。膨大な魔力を持つ彼女を狙って辺境領に隣接する森から魔物の襲撃があり、リリアーナの両親とジャービットの父である家令が死亡。しかしリリアーナは膨大な魔力で死亡した両親と家令の体内にある魔法回路へ働きかけ、生き返らせてしまう。  リリアーナが無意識に作っている結界内であれば生きることができるが、その外に出れば死んでしまう。  秘密を知るのは辺境伯夫婦とジャービットの父、そしてジャービットのみ。あと猫。  力の根源であるリリアーナすら知らない秘密を守りつつ、彼女を立派な辺境伯へと育てるためにジャービットは奮闘する。

第1話 めでたい!

 オレはジャービット・ロビンス。

 ロビンス家の1人息子だ。

 今日はオレの特別な1日になる。


「いい天気!」


 空を見上げれば晴れ渡る青。

 オレは、よく晴れた朝の空気を胸いっぱい吸い込む。

 気持ちがいいし、気分もいい。


 今日は5月5日。

 オレの誕生日だ。

 15歳になった。

 この国では節目の年となる。

 オレは今日から仕事を始めるのだ。


「がんばるぞっ!」


 オレは右手で拳を作ると、青い空へと突き上げた。


 お下がりだけど、パリッとノリとアイロンの効いた制服に身を包み、足取り軽く職場となる御屋敷へと向かうのだ。

 仕事といっても、執事見習いだけどね。

 服装は、白いシャツに黒のタイ、黒の上着と黒いズボンに黒の革靴だ。

 父さんがオレと同じく、見習いの頃に着ていた服をもらった。


 青い髪に青い瞳のヒョロッとした色白のオレは、170センチにちょい届かない程度と小柄だ。

 しかし父さんは、187センチと背も高いし、姿勢がいいからスラッとして見えるが筋肉もしっかり付いている。

 まだまだ育ちざかりの15歳だから、身長のほうも父さんに追いつけ追い越せで頑張って伸ばす予定だ。


 ロビンス家は代々、ファウスト辺境伯家に仕えている。

 父であるトーマスは、ファウスト辺境伯家の家令にまで上り詰めた。

 オレは父を目標に頑張るつもりだ。


 オレには、夢も、希望も、満ち満ちている。

 細身の体は夢と希望でパンパンだ。

 それにファウスト辺境伯家には、もうじき子どもが生まれる。


「赤ちゃんは、男の子かな? 女の子かな?」


 ワクワクする。

 オレは生まれてくる御子さまへ、お仕えすることになるのだ。

 ファウスト辺境伯家が治める辺境領は、王都から遠く離れてはいるが王国を守る上で重要な役割を果たしている。

 それは翻ってオレの役割も重要だということだ。


 辺境領には王都のような学園はないが、必要最低限のことが学べる学校はある。

 オレはそこで学び、あとは自宅学習で必要となる知識を身に着けた。

 辺境領の執事は文武両道であることも求められる。

 だから最低限の武術も学んだ。

 体は資本だから、健康のためにも運動は欠かせない。

 オレの15年は、ファウスト辺境伯家の執事となるために使われた。

 これからが本番だ。

 オレは父さんのような万能執事になりたい。

 だからそのために頑張る。


 空は青いし、風は爽やか。

 オレの未来は明るい。

 前途洋々だ。


 敷地内にある我が家を出たオレは、ファウスト辺境伯家の美しい庭を横目に見ながら、城のようにデカいお屋敷へと向かう。

 オレはご機嫌だ。

 足取りも軽い。

 ご機嫌だ。

 鼻歌や口笛が出そうだけど、それはグッと我慢する。

 遊びじゃない。

 オレは今日から大切な任務にあたるのだから。


「ニャウ」


 ん? ニャウ?


 可愛らしい声に、オレは足を止めた。

 そしていつのまにか足元にまとわりついていた、白くて小さい毛玉を見下ろした。


「猫?」


 どこから入り込んだのだろうか。

 子猫が庭にいるなんて話、父さんから聞いてない。

 父さんは優秀な執事だから、敷地内のことは把握しているはずなのに。


「ちっさいなぁ、お前。どこから来たんだ?」


 オレは不思議に思いつつ、屈んで子猫に話しかけた。

 真っ白な子猫は首を傾げてオレを見上げている。

 瞳の色は金色だ。


「お母さんは?」


 周りをキョロキョロと見回してみるが、猫の姿はない。


「なんだ迷子か? それとも置いて行かれちゃった?」


 ちなみにオレに母さんはいない。

 オレを産んだ時に亡くなったのだ。

 だからって不自由を感じたことはない。

 父さんの愛を一身に受けているのは分かっていたし、屋敷の皆もオレによくしてくれた。


「独りぼっちなのか?」

「ニャウ」


 オレは妙な親近感を感じて、子猫を拾い上げた。

 まだ手のひらサイズの小さな毛玉は、ピンク色のちびっちゃい舌で、オレの指をペロリと舐めた。


 ちっさくて、温かくて、すげぇカワイイ。


 思わずオレの口元が緩む。

 この国では、皆が魔法を使う。

 生活魔法程度の者も多いが、なかには戦士クラスの魔導士もいる。

 猫は使い魔として一般的な生き物だ。


「もうじき御子さまが生まれるって時期に、子猫を拾うなんて。これは運命かも?」


 オレは、ちびっちゃい体を上着の内ポケットに入れた。

 温い。

 子猫も大人しくそこに収まっている。

 だからオレは、そのまま屋敷へと向かうことにした。


「旦那さまに、お前を飼ってもらえるか聞いてみるよ。ダメだったら、オレん家に来るか? お屋敷ほどではないが、それなりに快適だぞ?」


 オレが子猫の小さな頭をコショコショと撫でていると、大きな声が屋敷の方から響いてきた。


「生まれたぞー!!!」

「鐘を鳴らせー!!!」

「女の御子さまだー!!!」


 御子が生まれたようだ。

 歓喜の声が辺りにこだまして、見張り台の鐘がガーンガーンと鳴っている。

 普段なら怒られるところだろうが、今日は特別だ。


「女の子か!」


 オレは叫びながら走り出した。

 ファウスト辺境伯家に生まれた女の子なら、絶対可愛い。

 オレはファウスト辺境伯とその夫人の顔を思い浮かべながら、浮かれた気分で屋敷に向かって駆けていった。

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