仕事柄、異能力者や怪異とは関わりを持っていたが、まさか俺の人生に深く関与するとは思いもしなかった。
三つ目の巫女。
祖先が鬼だとか、三つ目の怪異だとか言われる彼女には「見る」ことができるという異能が備わってる。
ただ、人の死に関わる預言は制限がかかってて見ることはできないらしい。
大事故や災害が見られないイマイチ能力の使いどころが低い彼女がこの国で重宝されてる理由の一つが人との「縁(えにし」を見ることができることだ。
所謂運命に紐づけられたという永遠の恋人とやらが彼女には見えるらしい。
彼女が選んだ相手を「番い」とし、番いに選ばれた二人を引き離すことは許さない、というのがこの国ではまかり通ってる。
番いを求めるのは主に権力者が多いため、自分の番いを守るために世間に周知させたというのが真実らしい。
かつての権力者も俺と同じく権力などで言い寄ってくる異性にうんざりしていたのか、それとも大事な血筋を守るために番いを求めていたのかはわからないが、今なら番いを求める彼らの気持ちがわかる。
生まれてからこれまで女性はおろか人に関心を持たなかったが、あまりにも女性に言い寄られ辟易していた所に後輩からも妹の顔合わせをさせられ決定的に嫌気がさした。
自分の手で「番い」を見つけ、その女を傍に置いたら他の女が寄ってこなくなるだろうという邪心があった。
三つ目の巫女への面通しが認められ、大広間へと案内される。
高座に人影らしきものが見えるが、御簾で覆われ詳細な姿は見えない。
「これはこれは。白の貴公子が番いを求めるとはのう」
愉快そうに笑うその声もくぐもっていて明確な年齢が読めない。
女性ではあるらしいが。
白の貴公子。
俺が護国機関の壱番警護隊の隊長に任命された時に普段着用してる制服の色からとって「白の貴公子」と名付けた。
俺の見栄えの良さを利用して護国機関のイメージアップを図ってるらしい。
体のいい広告塔だ。
正直ネーミングセンスはどうかと思うが。
「番いのお告げと言っても制約がある事は存じておるかえ?」
制約。
そんなものがあるとは初めて聞いた。
「未成年、現時点で恋人・配偶者が居る場合には依頼人には教えぬことになっておる」
それは周知されてない事実だ。
一般人でも知る人間はいないだろう。
「過去に色々な諍いが起きてのう。まだ子供じゃった番いを幽閉したり、あるいは番いが交際してた恋人を殺害したりがあったようじゃ。その制約も出来て30年だったか。護国の中でも知る者はほぼほぼ居ないじゃろう」
「なるほど」
そこまで番いに対して過度な感情を抱くというのは理解できないが。
「話は分かった。それで俺は何をしたらいい?」
「ふぅむ・・・しばし待て。いずれわたくしの方からそなたと番いに便りを出そう」
こちらからは御簾の様子が見えずとも、あちらからは丸見えらしいが短時間に顔を見ただけでもう終わりか?
果たして三つ目の巫女はどれほど「見えて」いるのか。
「信じるに足るか不信を抱いてるようじゃな。わたくしとしては取り澄ましたお前が番いを溺愛してる様が見えて愉快だというのに」
くくっと笑い声を押し殺している。
俺が?一人の女を溺愛?
思わず眉を顰めるとその様子すら面白かったのか巫女はさらに声をあげて笑った。
「そうじゃ。番いの指輪の準備が出来たらそれを持ってくるのじゃ。祝福を授けようぞ」
「わかった。・・・ではまた」
適当に礼を言い、大広間を後にする。
俺が誰かを溺愛するだなんて馬鹿らしい。
その時はそう信じて疑ってなかったのに。
俺の価値観を根底から覆す少女に、出会った。