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第45話 過去話 初めての友達 みやび視点

「ねぇねぇ、お姉さん高校デビューってやつ?髪の毛、茶髪なのに綺麗だよね。あんま痛んでなくない?トリートメントなに使ってんの?」

入学式を終えて自分のクラスでのそれぞれ自己紹介を終えて後は帰宅するだけ、というタイミングで、柔らかそうな髪質のショートヘアの女の子が満面の笑みで私に話しかけてきた。

「・・・同じ年だと思うけど」

「あ、そうなんだ。さっきの自己紹介で小・中学校に通ってないって言ってたから、年上の可能性もありかなって思った。なんか冷めてるっていうか大人びてるし」

貶されてるんだろうか、それとも褒めてんだろうか。

さっきの自己紹介で「藤原みやびです。小、中学には通っていませんでした」と言ったら場が騒然とした。

どうせ遅かれ早かれわかることだし早めに言っておこう、と思っていたら想像以上に私は異質な存在だったらしい。

義務教育制度が撤廃されてるが、進学校ではこの経歴は異質らしい。

なにやら色々と小声でささやかれてた。

どうでもいいけど。


「何か用?」

相手の意図が読めなかったので、つい冷たい口調になってしまった。

我ながらこういう所が忍さんと血が繋がってるんだなと感じられて嫌だ。

正直、茶髪にピアスとイヤーカフというこの格好では有名進学校である同級生には受け入れられないだろうとは思って覚悟はしてたけど、この子はどういったつもりで話しかけてきたんだろうか。

敵意は感じないけど、意図が分からない。

それが伝わったのか、何を面白いのか笑いながら「お、警戒してるって感じ?いいねー、野生のイキモノみたい。こういう子を調伏するのがたまらないんだよね~」とけらけら笑いながら続ける。

・・・馬鹿にしてんのかな。

それに調伏ってこの子意味わかってんのかな。

使い方間違ってない?

わかってて言ってんのかな。

私、悪行を制されるの?それとも呪い殺されるの?


「ちょ、ちょっとかなっぺ、いきなり話しかけてなにやってんの」と、眼鏡をかけた生真面目そうな子が慌てて止めに入る。

この子は分かりやすく「こんな素行が悪そうなやつに話しかけるなんて信じられない」という空気感を出してる。

「え~いいじゃん。藤原みやび、だっけ?じゃあ、みやちんだね」

「みやちんって何?」

「あたしが志島かなえでかなっぺ。こっちの眼鏡が櫻川ハルカではるっち。で、みやびだからみやちんじゃん」

何言ってんの?とばかりに返されたけど、みやちんって何?

櫻川も志島の勢いに飲まれて口をパクパクさせてる。

多分、櫻川にしてみたら私みたいなのとは関わりあいたくないだろうに、おそらく志島の友達だから止めようとして道連れにされた感じか。

かわいそうに。

まだ残ってるクラスメイトもこちらの様子を伺ってる。

そちらに視線を向けると慌てて顔をそらされた。

こういう人ら、本当にわかりやすい。

私みたいなのに関わったらこの子らも疎外されるだろうに。


「これからバイトだからもう帰るね」

とスマホで時間を確かめて「もう話はおしまい」とばかりに席を立つ。

それに気を悪くしたわけでもなく「おっけ~また明日ね、みやちん」と笑いながら手を振ってる。

「・・・ん」

なんだか素っ気なくするのも悪い気がしてさりげなく小さく手を振り返す。



翌日も私の姿を見つけるなり「おっはよ~、み~やちん」と、わざとみやちんという部分を強調してくる。

反論する気も失せた。

「おはよ」

別に友達を作りに学校に通うわけじゃないけど、向こうから寄ってくるのを避けるのもどうかと思い、尚も語り掛ける志島の話に適当に相槌を打つ。

志島は私の席の隣の椅子に勝手に座った。

その傍らに立つ櫻川は所在なさげに私たちの様子を見てる。

「みやちんってイヤーカフ日替わりでつけてんの?昨日のと違うよね。で、右は・・・ピアスかあ。攻めてんねー」

勝手に私の右耳にかかってる髪の毛をかき上げてピアスを確かめる。

「なんでイヤーカフ片方だけにつけてんの?そっち側っていわゆる「女の子が好きだ」って主張だよね。やだあたし狙われちゃってる?可愛いって罪だなー、トゥンク」

トゥンクって何。

この子、昨日も思ったけど個性的だな。

「別に。意味なんてない。ただの男避け」

「やっぱ男嫌いなんだ」

「ナンパしてくるやつは嫌い。そういうやつに限って片耳イヤーカフの意味わかってないけど」

「お、モテ自慢か?このこの」

わき腹を人差し指でつつかれる。

結構本気じゃない?痛いんだけど。

「簡単に誘いに乗りそうな軽い女だって思われてるだけだよ。面倒くさい」

「じゃあ茶髪にしなきゃいいじゃん」

「・・・なんで私のしたい格好を辞めなきゃいけないの。そういうの嫌い」

黒髪の私も嫌い。

「ひゅーひゅー、格好いいじゃん。そうだよね、女子高生が生足を晒してるのもオトコの為じゃないのに誘ってるとか言われるこの世の理不尽よ」

大げさにトホホとまで言ってる。

尚も櫻川は会話には入ってこない。


櫻川の為にももう話は打ち切った方がいいなと「もう担任来るんじゃない?」と話を変える。

「あーそうだね。期待してたんだけどなー。担任普通のおじさんでがっかりだわ。そういやみやちんバイトしてるんだー」

「まぁね、1人暮らししてるから」

「え、じゃあ今度遊びに行くよ」

「やだよ」

思いっきり嫌そうな顔をしてしまった。

「いいじゃん、いいじゃん。3人でパジャマパーティーしようぜ」

「3人!?」

櫻川は「巻き込まないでよ、冗談じゃない」とばかりに声を荒げた。

別に彼女を責める気はない。

「ん~、家狭いし壁薄いから無理だよ。隣のおばさんに怒られる」

入居の挨拶に洗剤手土産持参で行った時には私の格好に一瞬驚いたみたいだけど「今どき挨拶に来るなんてしっかりしてるわね~。なんか困ったことがあったらいつでも来なさいな」と明るく笑ってたからある程度の騒音では怒るような人じゃなかったけど。

夫婦で住んでるみたいだけど、おじさんの方は見たことないな。


「そういやかなっぺって、かなえからだろうけど、前菜みたいだよね。それでいいの?」

「そうそう。はるっちとは幼稚園の時からの友達なんだけど、アタシそれ知らなくてさー、なんかテレビで聞いてかなっぺっていいじゃんって思ったら衝撃の事実だったわ」

志島は腹を抱えて大笑いしてる。

ならそんなあだ名辞めりゃ良かったのに。


「それにしてもみやちん、いい茶髪具合だよね。アタシも染めようかな。どこのメーカーの毛染め液使ってんの?」

私の髪の毛を掬い上げながら志島が言う。

「・・・教えない」

「えー、けち~~」

「志島はそのままが一番いいよ」

実際にそう思う。

多分普通の家の子だから染めたら両親もビックリするだろうし。

「いいじゃん。他のクラスには金髪とかすっげー派手なピアス君とか刈り上げ女子が居るしさぁ」

「やめなよ、おばさんきっとめちゃくちゃ怒るよ」と櫻川もあわてて止める。

やっぱりそうなんだ。

「茶髪デビューしたかったからいいんだよ。ね、みやちん、アタシとお揃いになろうぜ」

ニシシ、と笑う志島は週明け本当に髪の毛を染めてやってきた。


色々と言い訳していたけどクラスで浮いてる私の為だな、と気づいた。

ちなみに案の定おばさんからは叱られたらしい。


変な子だな、と思いつつ生まれて初めて出来た友達とのやりとりはとても心地よかった。

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