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第46話 過去話 ともだちどうしですることぜんぶ ハルカ視点

入学式から時が過ぎても、クラスメイトの藤原への態度は変わらなかった。

あたしもかなっぺがやたらとこの子に関わる前はあっち側だったから、責める資格は無いんだけど、この子別になにもしてないじゃん。

見た目が派手だけど、ちゃんと授業を受けるし、先生に指された時だってきちんと答えられるからおそらく予習・復習もやってるんじゃないかな。

それに小、中学に通ってないと言ってたけど、自己勉強だけでこの進学校に入れるなんて並大抵の努力じゃない。

かなっぺとの会話の中で聞いたけど、家庭教師にも見てもらってたと言ってたか。

家庭教師を雇って、でも学校には通ってないというのが変だけど、他人の家の事情だしな。

もしかしたら子供の頃は病弱だったかもしれないし。


さらにいうと、一人暮らしでバイトまでしてる。

未成年なのに親元を離れて暮らしてるのがどういった事情なのかは知らないけど。

最初は距離を取ってたけど、悪い子じゃないなってわかった。

とはいえ、最初にアタシが藤原に感じてた嫌悪感はあの子にも伝わってたようで、アタシたちはかなっぺが居ないとぎくしゃくした関係だけど。


「あ、財布持ってない。先に行ってて」

3人でいつもの場所で昼食を取ろうという時に、小銭入れが昼休憩の時に持ち歩く巾着袋に入ってないのに気づいた。

今は使わないといえば使わないんだけど、なにぶんお金に関わる事だからカバンにはあるのかどうかハッキリしておかないと気持ち悪い。

ろくにお金は持ち歩かないので大した金額じゃないけど。


1人踵を返して教室に入ろうという時にクラスメイトの声が聞こえた。

まただ。

藤原を排除して自分たちの絆を高めようというゲスな声。

異分子を攻撃して自分たちの結束を高めようというのはニンゲンというかイキモノとしては普通なのかもしれないけど、非常に気分が悪い。

黒い羊効果(ブラックシープ効果)

異質な存在である藤原を孤立させる、自分たちの正当性を維持するためのスケープゴートだ。

アタシたちが時間ギリギリまで戻ってこないと知ってるからか、その話は過熱していってる。

胸糞悪くなってつい大きく音をたてドアを開けるとクラスのみんなが一斉にこちらを向く。

藤原ではないと気づくと「ビビらせやがって」とか「あのやかましい志島じゃなくてよかった」なんて言ってる。

アタシもこいつらの仲間認定されてるってこと?

非常に腹が立った。


「ねえ、なんでそんなに藤原を邪険に扱うのさ。格好悪いよ」なんて言ってしまった。

それに驚いたのか、一瞬空気が凍ったもののアタシ一人なら御せるとでも思ったのか「学校来るのにあんな格好とか無いわー」だとか「今まで学校に通ってないとかまともな家庭環境じゃない」だの「優待生制度を使って学費丸ごと免除とか格好悪い」とか口々に言い始めた。

なにこいつら。

「ピアスしてるの藤原だけじゃないじゃない。他の一年生にももっと派手なの居るよ。金髪とか」「家庭の事情も知らずに言わないでよ」と庇うことを言ってしまうが、白熱した同級生の声にかき消される。

とはいえ、一部の同級生だけだ。

短い期間なのにもうスクールカーストが出来上がってる。

大半の子は我関せずって顔で黙々と昼食をとってる。

それはそれで腹が立つ。



「うるさいんだけど。廊下にまで聞こえてるよ」

酷く冷たい声が響いた。

ギクリとした。

「なんで居るの?」

いつの間にかアタシの後ろに立っていた藤原は表情を変えずにひらひらと右手に納められたモノを見せる。

それはアタシの小銭入れだった。

「昨日、かなっぺにジュース奢ってって言われて面倒だからってこれ渡してたじゃない。で、かなっぺがさっきそれ思い出して私に返してきてって。そもそも人の財布とっとと返しておきゃいいのになんで2人とも忘れてんの」

淡々と話す藤原の静かな気迫に一同一斉に黙る。

まるでお通夜のように静まり返る。

アタシがこいつらを嫌いなのは、影ではこそこそというくせにいざ本人を目の前にしたら黙りこくるこういう所だ。

「行こう。昼休憩無くなるよ」とアタシの手を取ってとっとと出ようとする。

「ちょ、ちょっと待ちなよ。全部聞いてたんでしょ?あんた悔しくないの?」

「別に?言いたいやつには言わせておけば?」

「なにそれ!」

カッと頭に血がのぼって手を振り払ってしまった。

アタシが必死に弁解したのになんでそんなに「どうでもいい」って感じなの。

同級生らは居心地悪そうに尚もこちらを見てるけど、どうせアタシたちが出て行ったらまた悪口言うにきまってる。

アタシは悔しい。

藤原がこれ以上何も言わないと知ると、またクラスがざわつき始めた。

スクールカースト上位のやつらが藤原だけじゃなく、かなっぺやアタシまでも揶揄してきた。

アタシなんでこんな思いしてるんだろ、させられてるんだろと思うとなんかやるせなくなってきた。


藤原はアタシを一瞥した後に軽く頭をぽんぽんと撫でると、同級生らに向かって「私は何を言われたってかまわないよ。だって、来月の中間テストで全員平伏させるから。お利巧さん面してるやつらが、さんざん馬鹿にしてる女に学年首位とられるって考えると笑えるでしょ」と、右手の親指を自分の首を掻き切るジェスチャーをする。

藤原は見たこともないすごく爽やかな笑顔で言った。

「全員叩きのめしてやるから」

そしてそのまま親指を下に向け、素早く振り下ろした。

追い打ちまでかけるとか鬼畜か。


しんと静まり返ったクラスを出て二人揃って廊下を歩く。

思わず笑ってしまった。

「あんた、性格悪いって言われない?」

「友達居なかったから誰にも言われたことないな。もっともああやって陰口言う方が性格悪いと思うけど?・・・でも私の為に怒ってくれてありがとね」

隣り合って歩いてたアタシの肩を軽く引き寄せてそんなことを言う。

イケメンかよ。

「ホントだよ、コノヤロー。もう高校では新しく友達できそうにないぞ。あんたのせいで」

小、中学でもあまり友達が出来なかったから高校ではと思ってたのに。

でもあんなやつらとは仲良くなれなかっただろうなとも思う。

「ゴメン。ちゃんと責任取るよ。あんたが高校生活で友達としたいこと全部私とかなっぺとでやろう。はるっち」

人の気も知らないで朗らかに笑う。


「約束だかんね。友達同士ですること全部だよ」と軽くみやちんの左肩を小突いた。


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