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第66話 きつねうどんと海老フライ(さらにカツ) みやび視点

駅前の複合商業施設で遅めの昼ご飯。

いつも混んでいるフードコートも流石に空席が目立つ。

お互い適当に今食べたいものを購入する。

私は何にするか悩んだけど、うどんチェーン店のきつねうどんにした。

迷った時にはきつねうどんを食べている気がする。

オニギリを付けるか悩んだけど、中途半端な時間になったし、これから映画を見るのに血糖値が上がって眠くなるのも避けたい。

追加の具材も入れなかった。

きつねうどんにはアゲが入ってるだけでいいと思ってるから。


ナギはとんかつチェーン店の海老ヒレカツ定食にしたみたい。

上映時間までは余裕があるし、もうチケットも買ってるから余裕を持って食べられるなぁ。

食事した後は上映時間まで商業施設内をぶらりと見て回る予定だ。

とはいっても特に買い物の目当てはないのだけど。

ナギとならただ歩いてるだけでも楽しいし。

そういえば、新作のフラペチーノが出たみたいなので飲んでみたいけど、食事後にフラペチーノはちょっとなぁ。

チェックだけして映画鑑賞後にでも店に行こうかな。

そう考えながら、軽く髪の毛を結んで邪魔にならないようにして、うどんをすする。


「うどんが好きなのか?」

そんなに聞かれるほど、うどん食べてたかな?

・・・食べてたな。

「特に食べたいものが無かったら、とりあえずうどん選ぶ感じかな。ここのチェーン店は西側の出汁が選べるしつい注文しちゃった」

「西側の出汁?好きなのか?」

意外な事を聞いた、というニュアンスでナギが聞き返した。

うどんはやっぱり昆布と鰹節の出汁が美味しいよ。

そういえば実家でも西側のうどんの味だったな。

ネットショップで粉末スープを取り寄せていた気がする。

便利だな、インターネット。

「子供の頃は転々と引っ越ししてたんだけど主に西側に住んでたかな。だからなじみ深いんだよね、昆布メインのお出汁が」

「・・・へぇ」

私にとっては幼少時代はあまり思い出したくない過去だ。

それを感じたのかナギは軽く受け流してくれた。

プライベートな部分には踏み込まないでくれる。

そういう所も好き。


「それだけで足りる?」と聞かれた。

「うーん・・・物足りないといえば物足りないけど、映画前にあまり食べるのもねえ」と正直に言う。

特に小食というわけではないのはすでに知られてるし、正直に言っても構わないかな。

なんなら映画館を支援するためにもポップコーンセットを買ってもいいし。

ここの映画館は、塩&キャラメルのハーフ&ハーフがあるのが嬉しい。

何気に美味しいんだよね、ここのポップコーンは。


「そうか。・・・エビフライ1本食うか?」と、ナギが自分の2本ある内の1本の海老フライをお箸で摘まむ。

こっちはうどんなので受け取る小皿が無いのからどうしようかと困惑していたら「ほら、口開けて」と言われた。

こんな公衆の面前で何を、と戸惑っていたら「結構肉厚で旨いぞ」と煽られた。

その顔には、この状況を面白がってる表情が浮かんでいる。

この状態のままずっといるのも人目を引きそうなので、観念して口を開ける。

人前でちょっと恥ずかしいんだけど。

以前プリンの時に図らずも「あ~ん」をしてからナギはこの手のやり取りには抵抗が無くなったみたい。

というか、ナギは結構スキンシップが好きみたいだ。

番いとして知り合うまでは「この人格好いいけど冷たそう」というイメージだったのに意外だ。


好意に甘えて一口齧る。

「むぅ、確かに美味しいね」

海老と衣のバランスが良い。

揚げ方が上手なのかジューシーでもある。

フードコートに入ってるチェーン店だからとあまり期待していなかったけど、結構美味しい。

でもエビフライだからこの一口だけでは食べきれないからどうするのかなと思っていたら、ナギは自分の汁椀の蓋に残った海老フライとカツを乗せてこちらに寄こしてきた。

初めからそうしたらよかったんじゃないの?と思いつつ、お礼を言ってありがたく受け取る。

その心遣いが嬉しいんだけど「お返ししたいけど、こちらからは何も提供できない・・・」と、じとっときつねうどんを睨む。

なんせきつねうどんだ。

揚げとうどんと汁しかない。

あとはちらほら浮かんでいる葱。

海老フライ&カツの返礼にはなりそうもないラインナップだ。


「そうだな。揚げでいいぞ」なんて笑ってる。

「なんてことを。きつねうどんから揚げを取ったら何が残るっていうの。ただの素うどんになるじゃない。きつねうどんのアイデンティティを奪うだなんて外道か」と一息に言うと、ツボに入ったのか、ナギは声をあげて笑ってしまった。

軽く拳をあげ、殴る真似をする。

多分、他の人から見たら私たちはただの馬鹿っプルだろうなと思う。

いや実際にそうだろうけど。


この時間がとても心地いい。

ずっとこのまま続けばいいのに。



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