「さやちんどったの? もう放課後だよ? 帰らんの?」
見上げると金髪サイドテールで、耳にピアス、制服をおしゃれに着崩してスカートも短め……まさにギャル!を体現したような娘が見下ろしていた。
「ちーちゃん。先帰ったんじゃなかったの?」
「今時のJKなら放課後はやっぱ駄菓子屋で買い物っしょ!と思って戻ってきた」
彼女は私をなにかと気にかけてくれる女の子だ。
と言っても全校生徒は私を含めて16人。
そのうちの10人は小学生で、4人は中学生。
高校生はたった2人。
その2人が「
「勿論行くよね駄菓子屋! さやちん?」
うぇーい! とピースを決め「撮って撮って!」とちーちゃん。
ちなみに彼女は親の意向でスマホをまだ買ってもらえていないので、代わりに私のスマホでカシャリ。
「どうだろうね……今時、かなぁ?」
仲良くなれたのは彼女が本物のギャル……ではなく都会のギャルを夢見る女の子だったからというのが大きいと思う。
「悩むより行動あるべし! いくよさやちん!」
「ちょ、ちょっとちーちゃん!?」
私はちーちゃんに手を引かれて学校を後にする。
山間に位置し、都会までは車で2時間ほど。
バスは一日に数本しかこないし、電車は隣町からじゃないと乗れない。
娯楽は夕方に閉まるまだ行ったことのない駄菓子屋が一つと、小さな公園がいくつか。
洋服屋もファストフード店もカラオケもゲーセンも……この村にはない。
おまけに電波も弱いときた。
そんなナイナイ尽くしの村だけど、鮫神村には山中の湖を水源とする川から用水路がいたるところに引かれている。
水が美しいからだろうか、村の自然は豊かで景観がいい。
ちょろちょろと水の流れる音に混じって鳥やカエルの声が混じってにぎやかでもある。
田んぼの傍を歩いていると、田植え作業中のお婆さんが私達に声かけてきた。
「今帰りかい? 気をつけるんだよ~」
「気をつけます……」
「田中のおばあちゃんこそ田んぼ気をつけてね~!」
私は軽く会釈をして、ちーちゃんは元気に手を振って通り過ぎる。
ちーちゃんから聞いているけど、田中のお婆さんは御年95歳。
腰もぜんぜんまがっていないし、顔が全然しわくちゃじゃない。
田中のお婆さんだけでなく、すれ違う村人のほとんどが若々しくてとても元気だ。
ちーちゃんいわく、「それはこの村の水には人魚の出汁が入ってるからね! それを飲んでるから若いんだよ!」ということだった。
その昔村人が人魚を食べたという物騒な言い伝えは小耳にはさんだことがあるけれど……そんなアホな。
「さやちん、どの駄菓子にする? 私はやっぱギャルらしくこれかな! あとはアイスキャンディ!」
ちーちゃんはタバコっぽいお菓子を吸うマネをし、アイスキャンディも選ぶ。
「私はうま棒かなぁ……」
居眠りしていたお爺ちゃんを起こして会計を済ませてお菓子を受け取り、駄菓子屋から離れる。
駄菓子屋のお爺ちゃんも80歳を過ぎていると言うが、初老と言われても信じてしまいそうなくらい見た目が若かった。
……やっぱり人魚の出汁のせい?
「これで案内してないところなくなっちゃったなぁ」
アイスキャンディを舐めながらちーちゃんがぼんやり呟いた。
「もしかして駄菓子屋を案内するためだけに学校に戻ってきてくれたの?」
「そうさ! さやちんには早くこの村になじんでほしいからさ! ギャル的に仲間は大事だからね!」
バチコーンとウインクするちーちゃん。
ギャル的にの意味はわからないけど、素直で面倒見のいい子なのはよくわかっている。
「じゃあ、お礼にうま棒あげる、食べてちーちゃん!」
「わーうま棒! 千代、うま棒大好き~。……ん? これ納豆味!? キラーい……」
一口かじって嫌そうな顔をするちーちゃん。
その表情に私は思わず「ぷっ」と吹き出してしまう。
私達はしばらく笑い合った。
「はー…………あ」
「ん? どしたのさやちん?」
私は前方を見て固まる。
「ああ……あれね」
ちーちゃんが気づいてうなずいた。