ティアラとレオンが互いの想いを確かめ合い、呪いから解放されたハロルド公爵家には、静かで穏やかな時間が流れていた。長い間続いた不安と緊張から解き放たれた使用人たちは笑顔を取り戻し、館全体が生まれ変わったかのような活気に満ちていた。
ティアラはその変化を肌で感じながら、自身の役割について改めて考えていた。呪いが解けた今、彼女にはもう「封印の鍵」という使命はない。だが、それでもこの家でやるべきことは山のようにある。
「公爵夫人として、私ができることをしなければ……」
そう決意した彼女は、朝早くから館の隅々まで巡り、使用人たちと一緒に働き始めた。ティアラの姿を見た使用人たちは驚きつつも、彼女の誠実さに心を打たれ、さらに士気を高めていった。
---
ある日、レオンが執務室で書類に目を通していると、ティアラが紅茶を持って訪ねてきた。
「少し休憩はいかがですか、レオン様?」
彼女は微笑みながら、彼の机にそっとカップを置いた。その笑顔は、以前よりも柔らかく、どこか安心感を与えるものだった。
レオンは書類から目を上げ、ティアラを見つめた。その目には、彼女への深い感謝と愛情が宿っていた。
「ありがとう、ティアラ。最近、お前が使用人たちと一緒に働いていると聞いたが、無理はしていないか?」
彼の問いかけに、ティアラは軽く首を振った。
「大丈夫ですわ。むしろ、皆さんと一緒に過ごす時間が楽しいのです。私もこの家の一員ですから、少しでも役に立てればと思っています」
その言葉に、レオンは静かに微笑んだ。彼女がこの家を心から大切に思っていることが伝わり、胸が温かくなるのを感じた。
「お前は本当にこの家を変えてくれた。この館がこんなにも穏やかで明るい場所になったのは、お前のおかげだ」
レオンの率直な言葉に、ティアラの頬がわずかに赤く染まった。
「そんなことはありません。皆さんが支えてくださったからこそ、私も頑張ることができたのです」
ティアラは照れくさそうに微笑んだが、その笑顔にレオンの心はさらに和らいだ。
---
日々が穏やかに過ぎる中、ティアラとレオンの関係もますます深まっていった。ティアラは公爵夫人としての責務を果たしながら、レオンを支えるパートナーとしての役割を全うしようとしていた。そしてレオンもまた、彼女を全面的に信頼し、何かあれば必ず意見を求めるようになっていた。
そんな中、二人は館の改革にも着手していた。これまでの堅苦しい雰囲気を一掃し、使用人たちがより働きやすい環境を整えた。また、近隣の住民たちとの交流も積極的に行い、公爵家の名声は以前にも増して高まっていった。
「この館はもう、かつてのような閉ざされた場所ではありませんね」
ある日の夕方、庭園でティアラがそう呟くと、レオンは静かに頷いた。
「ああ。だが、それは俺一人の力ではできなかったことだ。お前が来てくれたからこそ、こうして新しい未来を築ける」
彼の言葉に、ティアラは少し驚きつつも微笑んだ。
「私も、ここに来て本当に良かったと思っています。あなたと共に歩むことが、私にとって何よりも幸せなことです」
その言葉に、レオンは目を細め、彼女の手をそっと握った。
---
その夜、館の大広間で小さな宴が開かれた。使用人たちと共に祝う、新しい出発を記念する宴だった。ティアラはシンプルだが華やかなドレスに身を包み、レオンと共に使用人たちを労いながら笑顔を振りまいていた。
「ティアラ様、いつもありがとうございます!」
使用人たちが次々に感謝の言葉を述べる中、ティアラはその一人一人に微笑みながら応じた。
「こちらこそ、皆さんがいてくださるおかげで、私も安心して過ごすことができます。これからも一緒に、この家を守り続けましょう」
彼女の言葉に、使用人たちは深く頷き、ますます結束を強めていった。
レオンはそんなティアラの姿を少し離れた場所から見つめていた。その瞳には、彼女への愛情と誇りが溢れていた。
「ティアラ、これからも俺の隣でいてくれるな?」
宴が終わった後、レオンは静かに問いかけた。その声には、不安ではなく確信が込められていた。
ティアラは微笑みながら答えた。
「もちろんです、レオン様。私はずっと、あなたの隣で共に歩んでいきます」
二人は月明かりの差し込む庭園で手を取り合い、未来への希望を胸に抱きながら、穏やかな夜を過ごした。
---
物語の最後、ティアラは朝日の差し込む窓辺に立ち、優しい微笑みを浮かべていた。その瞳には、新たな未来への期待が輝いていた。
「これからも、この家を守り、皆と共に幸せを築いていきます……」
その静かな誓いと共に、ティアラの新しい物語が幕を開けたのだった。
---