商人の国ソシエテは、王様がいない国。
政治に関わるのは、選挙で決まる大統領と評議会の人々。
ソシエテの首都コメルスは、海外との貿易の窓口だ。
「あの建物が、この街の冒険者ギルドだよ」
様々な商店が立ち並ぶ賑やかな街。
石畳の道を先導して歩きながら、湾岸警備隊長のトーンルンさんが言う。
トーンルンさんはスラリとした長身のイケメンで、多分30代くらいかな?
案内してくれたギルドハウスは、石と木で作られた大きな建物だった。
「冒険者学園の生徒が海賊討伐を手伝うことはあるけれど、こんな小さな子が1人で海賊船を大破させるなんて初めて聞いたよ」
冒険者ギルド・コメルス支部。
支部長のシースリットさんという中年男性が、報告書に向けていた視線を俺に移して言う。
ガタイのいいイケオジが、困惑気味にこちらを見ている。
「かけだしダンジョンの魔法陣から稀有な効果を得たそうですよ」
説明するのは、ここまで付き添ってくれたトーンルンさん。
ここに来る前に、呪いの魔法陣の効果で能力値や属性値が変わったことは話してある。
「あの魔法陣は勇者の資質の有無によって加護か悪戯を受けるそうだが……加護を受けたということだね?」
「はい」
シースリットさんに問われて、俺は頷いた。
リイン様の加護を受けたのは間違いないからね。
日本でトラックに轢かれて死んだ俺の魂がアルキオネに入ったっていう話は、信じてもらえなさそうだから黙っておく。
「ではギルドとしては、君の冒険者登録を急いだ方が良さそうだ」
「そうですね、プレア王家に知られて抱え込まれる前に、国家の縛りの無い冒険者になってもらいましょう」
「えっ?!」
イケオジとイケメンの話が、俺の想定外の方向へいっちゃったぞ。
海賊討伐の報酬を貰って帰るだけの予定が、まさかの冒険者登録?!
「アルキオネくんは、冒険者学園の生徒ということは、冒険者を目指しているんだろう?」
「そうですけど、卒業前に冒険者登録なんて、アリなんですか?」
「優秀な生徒の場合、在学中に冒険者登録をすることは稀にあるよ」
「優秀過ぎると、プレア王家から騎士や魔導士としてスカウトがくるけど」
能力を隠すのをやめたら、ギルドや王家がほっとかないようだ。
騎士団とか宮廷魔導士とか、お役所仕事はしたくないなぁ。
給料が安定しているのは王家に仕える騎士や魔導士だけど、俺はもっと自由に生きたい。
「王宮勤務なんて窮屈そうで嫌だから、冒険者登録をお願いします!」
「OK、さすがバランの養いっ子だね」
「そうそう、お役所仕事なんて安定した収入しか魅力がないからね」
俺がハッキリ答えたら、シースリットさんは満足そうにニッコリ笑った。
警備兵の隊長っていう正にお役所仕事なトーンルンさんまで微笑んでいる。
「じゃあ早速登録を済ませよう」
善は急げとばかりに、シースリットさんが背後の棚から金属製の板状の物を取り出した。
上下にパカッと開く、ノートパソコンに似た魔道具。
そのキーボードみたいな部分に両手の指先を走らせて、素早くタイピングするシースリットさん。
液晶画面みたいな部分が光ると、シースリットさんはテーブルの上でノートパソコン風の魔道具の向きを変えて、俺の方へ押し出した。
「この丸い石に触れながら、【
シースリットさんが指差す部分には、ノートパソコンに付いてるボール式マウスみたいな物がある。
画面には共通言語で「冒険者登録を開始してもよいですか?」という文字が表示されていた。
「
ボール式マウスみたいな物に片手の指先で触れながら言うと、画面が光った後に「登録完了」の文字が現れる。
この日、アルキオネ(俺)は6歳で冒険者になった。