「生えているが!?」
白鳥が、マギの股間から生えていた。
妖怪の目もマギの股間の白鳥に釘付け。
「暴れているが!?」
マギは絶叫した。
マギの意思とは関係なく、白鳥は勝手に動き、次から次へと妖怪の大群を虐殺した。
無双。
残るは黒鳥の妖怪のみ。
敗北を察したためだろうか、彼は黒い翼をはためかせ大空へと舞い上がった。
顔には笑みを浮かべて。
「余は公爵ぞ!!!」
マギは飛び去る妖怪に向かって叫んだ。
「この股間を何としてくれる!!」
* *
何も楽しくない人生。
朝、目を覚ますのが苦痛だった。
今日も生きていることを呪う。
体を起こさずに卵を抱いてぐずぐずする。
無理矢理ベッドから引きずり出され、食堂に連れて行かれる。
せめて美味しいご飯で一日を始めたい。
しかし、
「つまらないぞ!!!」
机の上に出されたのは白米と味噌汁。
「もっとたくさんご飯を寄越せ! 余は公爵ぞ!」
「マギ様、子供みたいなことを言っちゃダメっすよ」
「余は子供ぞ!」
「まあ、そうっすけど」
マギはまだ十歳を過ぎたくらいの歳だった。
「でもマギ様はこのお城の跡継ぎなんすからね? もっと大人な振る舞いしなきゃっすよ」
たしなめるのは侍従長の
「それに今この城の財政は逼迫してるんすよ。経済ズタボロっすからね」
「なら、どうにかせい」
「それをどうにかするのがマギ様のお仕事じゃないっすか」
「……城主は父上であろうが」
「親父さんは都に行ってんすから、今この家の代表はマギ様なんすよ」
「もうよい!」
雑に議論を打ち切り、マギはヤケ食いを始めた。
そんな少年公爵の悪態にはすっかり慣れている神葉。
淡々と伝達事項を伝えていく。
「少子化が進んでて、このままだと領民消滅っすね」
「よきに計らえ」
「妖怪がこの辺りにもたくさん出没してるんすけど」
「よきに計らえ」
「マギ様がポンコツって囁かれてて、疑惑を払拭するためには元服するしかないっすね」
「よきに計らえ」
「じゃあ、元服するっすか」
「よきに計らえ。……え?」
侍従長はほくそ笑んだ。
* *
言質を取った以上、行動あるのみ。
「もぉ~、着替えくらい一人でできるようになってほしいっすよ」
「ふん! 騙しおって」
マギは手伝ってもらわないと着替えられなかった。
神葉は溜め息をつきながらマギを近くの森林へと引っ張った。
元服。
自力で妖怪を退治できて初めて人は大人として扱われる。
簡単な条件のように思えるが、マギは震える。
「妖怪退治など、カラクリですればよいではないか」
「マギ様ってビビリっすもんね」
侍従長にいくら煽られたところで怖いものは怖い。
春の陽気の中にあってもマギの心は陰鬱だった。
「あ、そこにいるっすよ」
茂みから小さな妖怪が姿を現した。
「土地を緑化するだけのミミズみたいなやつっす。叩けば即死するザコなんで、さすがにこれならマギ様でもやれるっしょ」
神葉は楽観していた。
ところがマギはガクブル。
顔面蒼白。
目にはうっすら涙。
「マギ様、武器を構えるんすよ」
「……あ……」
「マギ様?」
「あああああああ!!!!」
「マギ様!?」
マギは走って逃げた。
まるで城の次期当主とは思えない行動。
公爵様のダメっぷりに慣れた神葉もさすがに溜め息をつく。