夜の城中で神葉と救祖が再会する。
「ご指示をたまわりたいっす」
頭を下げる神葉。
救祖は質問に答えず、神葉の横を通りすぎる。
「お互い、あのバカのせいで苦労しますね」
仕方なく神葉はついていく。
救祖は戸を開け、部屋に入る。
手慣れた様子だ。
「いいんすか、勝手に入っちゃって?」
「もはや我が城も同然!」
鼻高々の救祖。
神葉は冷ややかに救祖のまんまるヘアーを見下ろす。
「ほら、見て。金銀財宝」
部屋の中には、ありとあらゆる高級品が所狭しと並んでいた。
「お偉いやつらを信者にした甲斐があったってもんですよ。あいつら上納すればするほど徳を積めると思ってんだもん」
「見栄とかもあるんじゃないっすか?」
「代わりに御所藩の年貢率が上がってるらしいけど、むしろ好都合ですぅ。苦しくなればなるほど人は宗教的救済を求めますからね」
救祖は別の部屋に神葉を案内する。
「じゃっじゃーん。カラクリの間!」
今度はカラクリの保管庫だった。
カラクリ禁止令が出ている世界。
ほとんどの人々がこれらのカラクリを見たことも聞いたこともない。
「城の一角にカラクリ製造工場があります。後で見学してっていいですよ」
「自慢話はいつまで続くんすか?」
はーやれやれと神葉は頭をかく。
「わしはご指示をたまわりたいだけなんすけど」
「こいつぅ~~~~! せっかく私みずから最高機密を開示してやってるのにぃ! 少しは感心しろ」
「無理っす」
「これならどうだ!」
「話、聞いてないんすか?」
懲りもせず、救祖は次の部屋へ飛び込む。
「……!」
「さすがのお前も驚いたようですね」
神葉の目を見開かせたのは卵であった。
ガラスケースの中に厳重に保管された、大量の卵。
そのすべてが妖怪の卵である。
神葉は上下左右に目を動かし、
「すごい数っすね。この中には、あの卵が……」
「残念ながら無いね」
「……そっすか……」
「人類殲滅の日は近いわけだが? 喜びのリアクションは?」
「わしにはどうでもいいっすよ」
はーやれやれと救祖は頭をかく。
「人には将軍がいます」
「……は?」
「妖怪には皇帝がいるんですぅ」
救祖はいやらしそうな目で神葉を見つめ、
「ついに接触できました♪」
「!!!」
心臓の音が聞こえそうなほどの沈黙。
やがて冷めた声で救祖が、
「必要ならマギを殺せ」
つい先程までの楽しげな救祖はいない。
真剣そのものの様子で、
「作戦は最終段階。ここで失敗するわけにはいきませんから」
「……」
「どうしたんですぅ? もしかして、あのバカに情が移ったんですかぁ?」
「あんた、瀬良寺殿に匂わせたっすよね。あの人の死の真相のこと。なんでっすか? それも情ってやつっすか?」
「ふん。お前なんかにわかるかよ。バーカバカバカ」
それから2人は顔を見合わせる。
「私は私の目的のため。お前はお前の目的のため。頑張りましょう」
* *
城を出る神葉。
誰にも見られないよう、こそこそと。
しかし誰かに見張られている。
それに気づかない神葉ではなかった。
「何か用っすか?」
問いかけられた者は素直に姿を現す。
スーツにサングラスという出で立ちの人物。
「心当たりがございましょう」
それは加古川のお祭り会場にいた人だった。
蚊虻教の信者を装うが、その正体は、
「〝公儀祓除人〟ターマン・ホーマーでございます」
「知らない人っすね」
「同業者ではございませんか」
「わしは子守りのおっさんっすよ」
「いいえ、あなた様は伝説の公儀祓除人」
その場を立ち去ろうとしていた神葉が足を止める。
「それとも伝説の裏切り者とお呼びした方がよろしいでしょうか」
「……」
「なぜ裏切ったのでございますか? あの日、あなた様は仲間だったはずの瀬良寺様をその手で殺害されました。わたくしめには、さっぱり動機がわかりません」
「……」
「教えていただきたいものでございます。ただそれだけを知りたくて、わたくしめは今の今まで生き長らえてきたのでございますから」
神葉は言葉ではなく武器を選んだ。
刀に手を伸ばす。
跳躍。
勝負は一瞬だった。
ターマンは血を噴きながら倒れる。
「……なぜ……?」
神葉はターマンにとどめをささずに消えた。