再び凄まじい威力の蹴りを放つ槇村だが、今度は脅威とは感じなかった。
変身した深天は両腕を交差して平然とブロックする。
「なにぃっ!?」
「驚くようなことですか!」
罵声を浴びせながら、今度は深天が殴りかかる。
槇村は、それをガードして、即座に反撃を繰り出そうとするが、それよりも早く深天は神速の蹴りをくらわせた。
「ぐぁっ!」
宙に浮いた槇村の身体に、そのまま踏み込んで連撃を浴びせる。
もともと格闘技の実力は深天の方が数段上だ。スーツの力で基礎能力が互角になった以上、まったく負ける気がしない。
それでも槇村はムキになって食い下がってくる。
「くそっ、くそっ! 人間なんかの味方をするお前なんかに!」
「何をそんなに苛立っているのですか?」
攻撃を凌ぎながら深天が問う。
「お前はなんでそんなに平然としているんだ!? ずっと人間だと信じて生きてきたのに、俺たちは作り物で、ただの道具に過ぎなかったんだぞ!」
ずっとというほどの時間でもないが、騙されて傷ついたのは深天にも理解できなくはない。しかし、
「それで無関係なものにまで危害を加えるのですか。そもそもが元凶はハルメニウスだというのに」
「無関係なものか! 未来は教祖の仲間だし、その未来に味方するものはみんな同罪だ!」
「勝手なことを!」
深天が繰り出した拳を受け止めて槇村がさらに叫ぶ。
「ハルメニウス様は俺に居場所をくれる! 完全復活のあかつきには俺を教主にすると約束してくれたんだ!」
「小さい!」
深天は受け止められた拳はそのままに、もう一方の手で槇村の身体をつかむと、巴投げの要領で投げ飛ばした。
「うわぁぁっ!」
近くの家屋に叩きつけられて、その倒壊に巻き込まれる槇村。
それでもスーツの防御力によって大したダメージを受けることはない。瓦礫を押しのけるようにして、よろめきながらも這い出してくる。
深天はそれを容赦なく蹴飛ばして巨大な庭石に叩きつけると、倒れたところを踏みつけた。
「居場所は誰かに恵んで貰うものではありません。自分で見つけるものです」
道を踏み外したかつての仲間を見下ろしながら続ける。
「わたしが
あの夜、自分の正体を突きつけられた時、深天は自分の世界が崩れ去るのを感じた気がした。
しかし、実際に崩れ去っていたのは、小さな常識だけだ。
教祖との関係はこれから模索していくしかないが、最も大切なものは何も変わっていなかった。変わらずにいてくれたのだ。
ならば失くしたものなど取るに足らないものだと断言できる。本当に怖ろしいのは、それ以外の全てを失うことなのだから。
だからこそ深天は、それを奪おうとするハルメニウスを絶対に認めることはできない。それに荷担する槇村も同様だ。
「くそっ」
毒づきながら槇村は深天の足を乱暴に押しのけると、雪の上を転がって距離を取った。
立ち上がってなおも闘志を見せる彼の姿を、深天はヘルメットの下から冷ややかに見据える。
「まだやるというのであれば、ここから先は容赦はしません」
宣告すると、深天は自らのフェイスカバーを閉じて身構えた。
ヘルメットの奥で槇村が息を呑む気配が伝わってくる。それでも彼は戦いをやめようとはしない。
「お前こそ、こっちについた方が利口だぞ。人間の魔術師がいくら頑張ったところで神には勝てない」
断言する槇村だが、その声には先ほどまでの威勢はない。深天に実力の差を突きつけられ、完全に萎縮していた。
答えを返すことなく静かに見据える深天。
彼女の本気を感じたのか、槇村はゴクリと生唾を呑んだ。その背後、西御寺邸から奇妙な魔力の波動が広がる。
「しまった……!」
失策を悟って槇村が声をあげた。周囲を見回して、耀の姿が見えないことを確認すると口汚く叫ぶ。
「くそっ、あのロリババア!」
耀は深天が槇村を抑え込んでいる間に、西御寺邸に忍び込み、そこに構築されていた落ち武者を生み出す仕掛けを破壊したのだ。
「もはや
突き放したように告げるが、槇村は往生際悪く言い返す。
「それでも、最終的には神が勝つ!」
再び襲いかかってくる槇村を叩きのめすべく、深天は拳を握りしめた。