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第128話 闘え!クレストレッド

 再び凄まじい威力の蹴りを放つ槇村だが、今度は脅威とは感じなかった。

 変身した深天は両腕を交差して平然とブロックする。


「なにぃっ!?」

「驚くようなことですか!」


 罵声を浴びせながら、今度は深天が殴りかかる。

 槇村は、それをガードして、即座に反撃を繰り出そうとするが、それよりも早く深天は神速の蹴りをくらわせた。


「ぐぁっ!」


 宙に浮いた槇村の身体に、そのまま踏み込んで連撃を浴びせる。

 もともと格闘技の実力は深天の方が数段上だ。スーツの力で基礎能力が互角になった以上、まったく負ける気がしない。

 それでも槇村はムキになって食い下がってくる。


「くそっ、くそっ! 人間なんかの味方をするお前なんかに!」

「何をそんなに苛立っているのですか?」


 攻撃を凌ぎながら深天が問う。


「お前はなんでそんなに平然としているんだ!? ずっと人間だと信じて生きてきたのに、俺たちは作り物で、ただの道具に過ぎなかったんだぞ!」


 ずっとというほどの時間でもないが、騙されて傷ついたのは深天にも理解できなくはない。しかし、


「それで無関係なものにまで危害を加えるのですか。そもそもが元凶はハルメニウスだというのに」

「無関係なものか! 未来は教祖の仲間だし、その未来に味方するものはみんな同罪だ!」

「勝手なことを!」


 深天が繰り出した拳を受け止めて槇村がさらに叫ぶ。


「ハルメニウス様は俺に居場所をくれる! 完全復活のあかつきには俺を教主にすると約束してくれたんだ!」

「小さい!」


 深天は受け止められた拳はそのままに、もう一方の手で槇村の身体をつかむと、巴投げの要領で投げ飛ばした。


「うわぁぁっ!」


 近くの家屋に叩きつけられて、その倒壊に巻き込まれる槇村。

 それでもスーツの防御力によって大したダメージを受けることはない。瓦礫を押しのけるようにして、よろめきながらも這い出してくる。

 深天はそれを容赦なく蹴飛ばして巨大な庭石に叩きつけると、倒れたところを踏みつけた。


「居場所は誰かに恵んで貰うものではありません。自分で見つけるものです」


 道を踏み外したかつての仲間を見下ろしながら続ける。


「わたしが人造生命体ホムンクルスだと知っても雨夜さんも北さんも変わらなかった。西御寺先生もあの藤咲ですら変わらなかった」


 あの夜、自分の正体を突きつけられた時、深天は自分の世界が崩れ去るのを感じた気がした。

 しかし、実際に崩れ去っていたのは、小さな常識だけだ。

 教祖との関係はこれから模索していくしかないが、最も大切なものは何も変わっていなかった。変わらずにいてくれたのだ。

 ならば失くしたものなど取るに足らないものだと断言できる。本当に怖ろしいのは、それ以外の全てを失うことなのだから。

 だからこそ深天は、それを奪おうとするハルメニウスを絶対に認めることはできない。それに荷担する槇村も同様だ。


「くそっ」


 毒づきながら槇村は深天の足を乱暴に押しのけると、雪の上を転がって距離を取った。

 立ち上がってなおも闘志を見せる彼の姿を、深天はヘルメットの下から冷ややかに見据える。


「まだやるというのであれば、ここから先は容赦はしません」


 宣告すると、深天は自らのフェイスカバーを閉じて身構えた。

 ヘルメットの奥で槇村が息を呑む気配が伝わってくる。それでも彼は戦いをやめようとはしない。


「お前こそ、こっちについた方が利口だぞ。人間の魔術師がいくら頑張ったところで神には勝てない」


 断言する槇村だが、その声には先ほどまでの威勢はない。深天に実力の差を突きつけられ、完全に萎縮していた。

 答えを返すことなく静かに見据える深天。

 彼女の本気を感じたのか、槇村はゴクリと生唾を呑んだ。その背後、西御寺邸から奇妙な魔力の波動が広がる。


「しまった……!」


 失策を悟って槇村が声をあげた。周囲を見回して、耀の姿が見えないことを確認すると口汚く叫ぶ。


「くそっ、あのロリババア!」


 耀は深天が槇村を抑え込んでいる間に、西御寺邸に忍び込み、そこに構築されていた落ち武者を生み出す仕掛けを破壊したのだ。


「もはや趨勢すうせいは決しました。あなた方の負けです」


 突き放したように告げるが、槇村は往生際悪く言い返す。


「それでも、最終的には神が勝つ!」


 再び襲いかかってくる槇村を叩きのめすべく、深天は拳を握りしめた。

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