上下左右から襲い来る銛の雨を前にしても朱里は怯まなかった。

　巧みな体重移動シフトウェイトで隙間をかいくぐって前進を続けると、金色の拳鍔ナックルダスターによる渾身の一撃を本体に叩き込む。

　正確無比にして神速の一撃だ。それは、かつてレールガン斉藤の異名を取った朱里の父の必殺ブローを彷彿とさせる一撃だった。

　装甲が砕け散り、セラフモドキの身体がぐらつく。

「エイダちゃん！」

　朱里が呼んだ時にはエイダはすでに聖剣に自らの魔力を流し込んで跳躍している。

「てぇやぁぁぁぁっ！」

　雄叫びとともに全力の斬撃を敵の頭頂部に叩きつけた。

　魔力のスパークを撒き散らしながら聖剣ブライトスターは、頑強なセラフモドキの頭を見事に断ち割る。

　しかも、彼女たちの連携はこれで終わりではない。

　倒れ込むセラフの後ろに回り込んだ朱里が左右の金色の拳鍔ナックルダスターをマシンガンのように叩きつける。次々に装甲が砕け散り、破片が宙に舞った。

　さらには着地したエイダが今度は全身全霊を込めた横殴りの斬撃をお見舞いする。

　おそらくはダメージの蓄積によって魔力が衰えたことで防御力も低下したのだろう。今度の一撃はセラフモドキの身体を思いの外容易く上下に斬り裂いていた。

　金属がこすれ合うような異音を響かせながらセラフモドキの巨体が雪の上に倒れ、光の粒子となって拡散していく。

「やった！」

　歓声をあげる朱里。

「ありがとうございました、朱里。正直、危ないところでしたが……」

　今ひとつ歯切れの悪いエイダ。

　彼女が自分の背後を見ていることに気づいて朱里がふり返る。

　先ほど馬エクウスを追いかけていったセラフモドキが戻ってきたのだ。

「あっちは新品だね」

「ええ、無傷です」

　剣を手に呼吸を整えるエイダ。

　その隣で朱里は拳を握りしめた。

「もう一頑張りだね」

「すみません。あなたは部外者なのに」

「関係ないよ。だって……」

　金色の武具アースセーバーは望む者に強大な敵と戦う力を与える。それを自らの意思で手にしたならば、その時点で覚悟は決まっていなければならない。

　今さら自分は一般人だ、などという言い訳はできないし、するつもりもない。

　それに――

「わたしは地球防衛部に入るって決めたから」

　はっきりと告げると、朱里は雪に覆われた大地を蹴って走り出した。

　地球防衛部の部室で今一度金色の武具アースセーバーを手に取ったとき、朱里はずっと悩み続けていた問題の答えを見出した。

　地球防衛部に入るべきか否か。

　戦いの世界に身を置くことの怖れや、命の危険に身をさらすことのリスクなどで、ずっと二の足を踏んでいたが、重要なのはそんなことではなかった。

　今この状況で、じっとしていられない。誰かが危険にさらされたとき、それを放っておくことなどできない。それが自分の本質ならば、悩むことに意味などなかった。どんな理屈も最初から用をなさなかったのだ。それはきっと地球防衛部に在籍した歴代の部員たちも同じ気持ちだったはずだ。

　だからもう迷いはない。

　守るべきものがそこにあり、戦う手段があるならば、自分のような人間は、どのみち戦うしかないのだから。