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第130話 誇り高き四天王

 一方、壁際では篤也と慚愧が、それぞれにセラフモドキと激戦を繰り広げていた。

 この敵は魔術には強い耐性があるらしく篤也の雷光は効果がない。

 しかし、彼が手にする金色の回転鋸バトルソーの斬れ味はとんでもなく、飛来するトゲの群れをバリカンが髪の毛を切り飛ばすような勢いで、軽々と斬り裂いていく。

 その隣で慚愧もまたもう一体を相手に奮戦していた。

 一度は迷走し、望んではならない夢に手を伸ばしかけた彼だが、今はもう迷いはない。

 何よりこの村は、彼にとって大切な主との思い出の地だ。

 ここをドス黒い野望のために利用するハルメニウスなど絶対に赦すことはできない。

 思い返してみれば慚愧の主人は、何よりも正義の味方を愛した人だった。

 清楚なその見た目に反して意外にオテンバで、彼はよく彼女の正義の味方ごっこにつき合わされたものだ。

 ずっとひとりぼっちだった彼女には他に遊び相手がいなかったため、彼はいつも悪の幹部役で四天王なるものを、一人で四役こなしていた。


「いいこと。四天王は悪役だけど誇り高いのよ」


 ふと彼女の言葉が脳裏に蘇って、慚愧の口元が綻ぶ。

 それでも集中力が乱れるどころか、むしろ不思議な力が湧いてくるようだった。

 戦い続ける彼の脳裏に、再び彼女の声が響く。


「でもね、ニヒルなだけじゃないの。ちょっと間が抜けて愛嬌があるところが魅力でもあるのよ」


 彼女の注文は当時の慚愧にとっては難解で、実演にはいつも苦労させられた。

 そもそもが慚愧を始めとする四天王は彼女のオリジナルで、四兄弟という設定だった。

 彼は不器用ながらも段ボールや厚紙を使って衣装を作り、カツラを被ったりと演じ分けに苦労していたが、彼女が嬉しそうに微笑んでくれるのを見ると、そんな苦労などどうでも良くなった。

 その笑顔が永遠に失われた時、慚愧は悪魔に魂を売ってでも、それを取り戻すことを望んでしまったが、そこから始まった暗黒の日々は、いつしか彼の心の中から彼女の眩しい笑顔を消し去ってしまっていた。

 しかし、その彼女が今はまた、思い出の中で微笑んでくれている。正しいことのために戦う慚愧になら、いくらだってエールを送ってくれる。

 ならばもう、怖れるものなど何もない。

 まとめて複数のトゲを切り飛ばした慚愧は、大股で勢いよく踏み込むとセラフモドキの身体に鋭い斬撃を浴びせる。

 堪らず後ろに下がるセラフモドキ。その背後から猛然と突撃してくる人影があった。

 金色の大金槌ロングハンマーを手にした月見里朋子だ。

 朝日向耀の働きによって落ち武者が消えたことで、自由に動けるようになった彼女が、藤咲をその場に残して仲間の援護に駆けつけたのだった。

 背後からすくい上げるような打撃を受けてセラフモドキの身体が宙に浮く。

 慚愧はそこに、奥義虚空旋月こくうせんげつを叩き込んだ。それは彼女が考えてくれた四天王の必殺技だ。もともとはただのごっこ遊びだったが、慚愧は修練によって、それを現実の技として完成させたのだ。

 刀身より撃ち出された魔力が無数の三日月となってセラフの身体を斬り刻む。

 だが、それで終わりではない。

 慚愧はそこからさらに踏み込むと、奥義の本命となる大刀の刃を叩き込んで、頑強なセラフモドキの身体を両断してみせた。

 活動を停止した敵は大地に落ちる間もなく光の粒子となってかき消える。

 残るは篤也が相手にしている一体のみだが、彼はただでさえ戦いを優位に進めており、そこに慚愧と朋子が加わる以上、勝敗はすでに明らかだった。

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