「はっ! 女神様!?」
ココが目を覚まして、ガバっと上体を起こした。
あんまり急な動きだったから、俺もビクッとしちゃったぜ。
「お、起きたな。もう夜明けだぞ」
東には山々が連なり、その山頂の間からゆっくりと青い太陽が登ってくるところだ。
「ココ、調子はどうだ?」
俺が聞くと、ココはぼんやりとした顔で、
「ええ、なんか、いい夢を見ましたわ……。トウモロコシが……」
「トウモロコシ?」
「ええ、救世主様、あなたはトウモロコシを召し上がっている女神様に生き返らせてもらったと、そうおっしゃってましたわね」
「ああ、そうだな」
「やはり……。私も、幼少の頃からトウモロコシを手に持った女神様の夢を何度も何度も何度も見たのですわ……。やはり……あなたは救世主様……」
そこに、すでに起きていたガルニが言った。
「なにを言っている。テネスの女神がトウモロコシを持っているなど、聞いたことがないぞ。……まあたしかに聖典には、『世が乱れるとき、女神が他の世界の人間を蘇生させ、この世に顕現させるだろう。彼は空中から湖に入り、水で身体を清めたあと、人々の前に現れる。彼はまさに救世主である』という文言がある。あるが……私は信じてないからな」
ガルニの頭上のステータス。
● A
▲ A
■ B
魔力 E
★ D
ふむ、変わってないな。
ENPになっていた魔力がEに戻っているくらいか。
一晩たって回復したのだろう。
一応、検証はしていくか。
「ガルニさん、ガルニさんはどちらかというと魔法よりも剣が得意な方ですか?」
俺が尋ねると、ガルニは頷いて言う。
「ああ。本当は、近接戦闘が得意だ。剣の腕なら覚えがあるのだが……。魔法攻撃もできなくはないが、あんな、空を飛ぶドラゴン相手にはな……。正直、客人、あなたには感謝している。シュリア様とミラリス様はあなたのおかげで助かった。ありがとう」
頭を下げるガルニ。
「いえいえ。俺は俺のやれることをやるだけです」
その時、ガルニのステータスがビコンッ! と変化した。
● A
▲ A
■ B
魔力 E
★ D⇒B
Dだった★がBにあがっているな。
たしか、俺と最初に話したとき、ココの★はCだった。そして、俺を救世主と思い込んだあとはSSSSS。さらにはドラゴンを倒し、ニッキーを救ったあとはUltraになった。
ガルニの★はDだったのが今はB。
なんだろう、救世主に対する信仰心だろうか。
たぶん、そんなようなもののはずだ。
ガルニのそばで、シュリアとミラリスの姉妹が抱き合うようにしてぐっすり眠っている。
おそらく、領主であるシュリアの父も、この騒ぎを聞いてそのうち戻ってくるだろう。
だが、すぐというわけにはいかない。
数日はかかるとガルニから聞いた。
だから、それまではシュリアは領主代行として頑張る必要がある。
目を覚ましたらガルニの補佐があるとはいえ、まさに戦場のような忙しさになるだろう。
今はできるだけ休んでいてほしいな。
「ココ」
「はい、救世主様」
ココの頭上のステータス。
● E
▲ D
■ E
魔力 SSSSS
★ Ultra
すげえな、一晩眠っただけで魔力が完全回復している。
ココの魔力を使えば、怪我人たちを全員治癒してまわれるんじゃないか、と俺は思った。
正直に言って、俺は「ありがとう」と言われるのが好きだ。
大好きだ。
だって、なんか自分が価値のある人間になれた気がするじゃん?
偽善なんだけど、俺が頑張ることで誰かが「助かったー」って思えるなら、それでいいと思うし。
みんなにめちゃくちゃ感謝される俺……。
うーん、絶対気持ちいい。
「よし、まだ怪我人がいるはずだ。ココ、俺たちで村人たちの間を回って、治していこう」
「はい!」
瞳を輝かせて返事をするココ。
そのとき、ココのお腹から、クーーッとかわいい音が聞こえた。
そういや、俺も腹が減ってるな。
「ガルニさん、なにか食べ物と飲み物ありませんか?」
「ああ、黒パンでよければあるぞ。……姫様が起きたら、もっといいものを用意するつもりだが……?」
「いえ、これでいいです。とにかく、村の人たちを助けたい」
黒パンは、めちゃくちゃ硬かった。
正直、石かと思ったぜ。
正直、あんまりおいしくないし、品質が高いものとは思えなかった。
「うふふ、私はこれ好きですわ。いつもこれを食べているのですもの」
ココは嬉しそうにパンにかじりつく。
まあ、奴隷だからな。こういう低品質のパンをいつも食わされていたってことか。
とにかく、腹ごしらえをしたら、やれることをやるぞ。