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被害者はどっち……?(猿堂視点)

「ーーさて、」


 急遽変わった、感情が消えた声色。

 予想外の結末に、夜の妄想オカズが無くなり悲観的になっていた俺は、帰ろうと席を立ちあがろうとした時にだった。

 いきなり掴まれた左手首。強く掴まれたためか、鈍い痛みがじんわりと走る。

 不思議に思った俺は、その矛先へ視線を移すと腹黒次男坊が笑顔を向けていた。しかも、満面の笑顔で。

 だが………何故だろうか。

 目が笑っていない、というのが正解なのか……?野郎の瞳は愛想の良い下がった目尻と正反対にマグマのように煮えたぎっているような気がした。



「猿堂さん♪」

 急に人懐っこい声色に変えてきた次男坊。知らないヤツからしてみたら、フレンドリーで会話しやすい雰囲気が第一印象だろう。

 だが……知人、しかも相手の性格を知っているからしてみたら……怖い以外何もない。

━━━といっても、お、俺は恐怖に、か、感じてないぜ。ただ、警戒しているだけだ。そう、これは当主として自分の感情に吞まれないように緊張感を保っているだけDAッ!!

「そんなに警戒しなくて大丈夫ですよ、猿堂当主♪」

(こ、こいつ……また!?やはり、さっきといい……やはり、読心じゅ━…)

「いや、また独り言で声が出ていたがけですから」

「………………」

「あの━━…こんなこと言いたくないですけど、よくそんなんで厄除師の当主になれましたね……尊敬しますよ、ある意味で」

「━━━マジで!?それだったら、風羅ちゃんとの結婚を認めてく……」

「え?嫌ですよ?うちの家系でこれ以上ポンコツはいらないので」

「ちょ、なんでだYO!?というか、人の会話を泥棒してんじゃNeeeEEEEE

ッ!!」

「また、大声を……!どんだけ学習能力無いのですか、アンタは。ここまできたら若年性認知症ですよ。今すぐに病院へ行く事をおすすめしますよ。それはそうと、猿堂さん………」

「な、なんだよ……?というか、ここでは他の一族の長に対して最後に”当主”って言わないと問題になりかねないぞ、宇宙くん」

「あ、大丈夫ですよ!普段から人に合わせてちゃんと言ってますので」

「……………で、なんだよ?」



「〈プア・ハラスメント〉って知ってますぅ~?」



「………プア・ハラ…スメント?」

 聞き慣れない〈単語〉が耳に入ってきた。

 確かにどの国でも、色んなハラスメント名が生まれている。それによって、昔、見て見ぬふりとされてきたことが問題視とされ改善されている。その裏で、悪知恵する奴に悪用されて被害者も出ているのも現実だ。

 世の中は、改善されたかと思えば、その逆も目に入ってくるものだ。


「簡単に言いますと~、被害者ぶって相手の名誉を汚し、誤解解けたにも関わらず、謝罪もしてこない自己中心的な無責任クソ野郎のことを言いますね」

「そ、そうなのか……日本では今そういったものが厄介なヤツがいるんだな。そこは、俺の派遣先のアメリカとは違うNA!アメリカの住民たちは自分をしっかり持っている者が多いしな」

「そうなんですね~~~~。もし、そういった悲劇の主人公ぶったポンコツの対処って……猿堂さんだったらどうします?」


 これは、当主の器を問われる質問、だと察した。


 つまり、指導力、的確な判断、優れた解決力、が試されるってことだ。これは、当主試験の延長線上に近いシゴト。

 でも……何故だろうか、嫌な予感しかしない。

 質問してきた相手は俺より五歳年下、ましてや風羅ちゃんの兄を無下にするのは(今後のことを考えると、)色々とマズイ。主に、将来的に婚約できるかとか、夫婦になれるかとか、家族の一人として認められるだろうかとか……。

 そう、目の前の野郎が……たとえ、相手が腹黒&金の亡者だとしてもだ。


 でも、風羅ちゃんは今……彼氏と同棲しているという間違えた道を進み過ごしている。そうなると、俺が救わないと彼女は過ちのままってことになる。

 そのためには、神龍時家の奴らにも協力してもらわないといけない……まずは、成功させることを優先にしないと。

(なので、ここは………当主モードに切り替える!!)


(━━…って、考えているよなぁ、この人……。なんで、当主になれたんだろう?この単細胞は。そもそも、妹が毛嫌いしている気づいていないし…………面白いから、黙っていよ☆)


「宇宙くん、何かあったのかい?よかったら相談にのるからな。そうだNA……、そういう時はアメリカだと慰謝料請求が多いな。でも、日本だと……」


 そう伝えつつ、再度席に座ると

「わぁ!ありがとうございます。さすが、当主の鏡ですね!!猿堂当主」

「そ、そうか!……それじゃ、これで風羅ちゃんとの付き合いを認めてく……」

「では宜しくお願いします☆」

と嬉々としながら、俺の前に紙切れ一枚を軽やかに置く次男坊。そのA4サイズの用紙を手に取ると



「…………通知書?精神的苦痛により……、慰謝料請求ぅぅうううッ!?」


 相手の言葉と満面の笑みは、怒りだとここで察した俺。だが、もう手遅れだった。




━━━━━さぁ、被害者中はどっち?




〈了〉




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