もう、何日経っただろうか。
僕が神になるための修行を初めて、体感1年はたった。
この世界は、どれくらい時間が経っても夜が訪れることはなく、ずっと真っ白なままだ。
この世界には僕しかいないので、僕は誰かと話すこともできない。
生前は「人と話さずに生きるなんて余裕でしょww」みたいなことを思って生きていたが、今僕は話せる知人、友人のありがたみを再確認していた。
「ねぇ...誰か反応してくれよ」
そう、虚空に話しかけても無論、誰も反応しない。
誰もいない、誰とも話せない、僕は独りだという認識が、僕をむしばむ。
あたりに何か物があれば少しは耐えれたのだろうが、何もないせいで余計に精神を消耗する。
...あぁ、そうか。
魔術で、人を創ればいいのか。
ふと、そう思った。
——僕がこれまでに習得したスキルに、【魔導】というものがある。
これは、存在する魔術なら、仕組みを完全に理解し覚えることですべて使用できる、そして一から魔術を組むことで新しい魔術を創造できるというスキルだ。
そして、この【魔導】で『人』を創るために必要なものは、『人体構造の理解』と『魂の構造体の理解』、あとは『人の肉体創造のための物質創造魔術』の3つ。
人の仕組み、これはこの一年の中で完全に理解した。
ときどき、僕は独りだという現実のせいで頭がおかしくなり自傷行為を繰り返したせいで、いやというほど人間の人体構造は理解した。
おそらく、神を除いて人という生物を一番理解しているのは僕であろうという自負もある。
リスカ、なめちゃいかんよ。
次に、魂の構造体。
人のみならず、生物の魂というのは膨大な情報の塊と呼ぶのが一番適している。
これまで輪廻転生を繰り返した世界の情報、その世界での記憶、これまでの経験、そのすべてを記録し、僕たちの感情というのは『魂』に記録された情報から神経がはじき出した計算結果に過ぎない。
基本、創られたばかりの魂はなにも情報を持っていないため、生物として生まれた世界でも学習に専念する。
平均的に、輪廻転生を500回ほど経験すると、やっと学習をやめて自立行動を始める。
人を、友人を創るためにはこの『魂の構造体』を完全に理解し、この世界の情報と転生の情報、そしてその経験の情報などをある程度の情報を矛盾なく偽造する必要がある。
構造体の仕組みは理解してるとはいえ、友人を創る中でこれが一番苦労するといっても過言ではないだろう。
次に、肉体創造の物質創造。
これは言葉通り、創造、偽造した魂を受肉させるための肉体を創るための魔術だ。
人の肉体は、
・水40L
・炭素25㎏
・アンモニア9L
・石灰2㎏
・リン805g
・塩分255g
・硝石105g
・硫黄85g
・フッ素8g
・鉄10g
・ケイ素8g
・その他少量の20の元素
で構成されている。
この材料使用して肉体を創造するための魔術を【魔導】で創造し、創造した肉体に偽造した魂を入れる。
物質創造魔術の仕組みはある程度理解しているので、それに材料創造と肉体形成の魔術を応用すればなんとかなるだろう。
ある程度、人を創る算段はついた。
あとは、この工程を全て魔術に纏めるだけ。
ただ1人友人を作るだけで、僕はこの場所で生きていくことができる。
今になって思う。
この時の僕は、孤独感でおかしくなっていたのだと。
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「ついに...できた」
人を創る魔術を作ると決めて、すでに2年が経った。
あれから毎日一睡もせずに魂についての情報を研究し、ようやく僕は指定通りに魂の情報を矛盾なく偽造する魔術を創造することができた。
といっても、僕1人でできた成果ではない。
研究を始めて1週間で、魂を偽造することは情報量が多すぎて僕だけではほぼ不可能に等しいということがわかったので、【魔導】で僕の知識を全て詰め込んだ自立人口知能を作成したのだ。
といっても、生前に研究されていたような脳のシナプス構造を完全再現したわけではなく、周りの事象を全て観測、事象の仕組みを解析、学習、そして学習データからの推測、質問への返答、自立行動など全てできるように半ば無理矢理魔術を組んだだけなのだが。
名前は
目の前に、膨大な情報が埋め込まれた陣を浮かばせる。
この魔法陣に魔力を流し込むと、僕念願の人創造の魔術が起動する。
「アリア、この魔術の失敗確率は?」
『この魔術の失敗確率は……82%です。
魂が壊れ、肉体が崩れ、創られた“存在”が“存在しない”ことになる可能性も、高い確率で含まれます。
それでも……あなたは“独り”ではいたくない。
——それが、どんなに罪深くても。
そう、願いますか?』
人が人を創るという禁忌。
とうぜん、魔術理論は完璧だったとしても、失敗率は高い。
それこそ、ほとんどの確率で失敗するほどに。
だけど僕は、この場所でずっと一人でいられるとは思わない。