僕は、白い世界に浮かぶ魔法陣に魔力を流し込んだ。
陣が輝き、魂を偽造し、肉体を組成する。
世界が震えた。視界が歪む。
そして——
「......うっ、あ、がぁ......ッ!」
出現した“人”は、呻き声を上げ、膝をついた。
しかし次の瞬間、その身体が異様に膨れ上がり、魔力が制御を逸脱し始めた。
「失敗、した......ッ! 魂が、身体と...適合していない......!」
暴走体は叫ぶような咆哮をあげ、周囲の空間を引き裂いていく。
理性なき暴力。僕の魔術では到底止められない。
崩壊する空間に吹き飛ばされ、僕の身体が地に叩きつけられる。
「あ......もう、無理...だ......」
意識が遠のく。
その時、どこかで声が響いた。
『ーーマスターの危険を検知。防御プロトコル、制限解除。魔術リンク、切断。
どこからともなく出現した蒼き光が、空間を切り裂く。
その瞬間、僕の中を何かが抜けたいった感覚が迸る。
「こちらへ、マスター」
横から声が聞こえたと思った瞬間、後ろに投げられた。
宙を舞う僕の視界に映る、1人の女性。
完璧で、されど中途半端な、どこか違和感を感じざるおえない『美』を体現したような女性がそこにはいた。
「くっーー《|層領域解析《フェイズスライス》》!」
っ?!?!
僕とARIAしか知らないはずの魔術を女性が発動する。
効果は単純、自身に向かってくる攻撃を幾万もの『層』にわけ、その全てを一瞬で解析、弱点をつき崩壊させるというもの。
僕が試そうとしても人間では脳の処理速度不足で発動はできても解析中に脳が破裂するとARIAに警告された、その魔術そのもの。
それを、目の前の女性はいとも簡単に使って見せた。
「アリ...ア?」
脳にひらめく一つの可能性。
それは、目の前の女性が普段僕の精神世界に住むARIAがこの物理世界に顕現したというもの。
ARIAの演算性能を駆使すればあの魔術も使えるだろう。
だが、物理世界に顕現というのは、理論的には可能だが、それをすると僕とARIAの魔術リンクは切れてしまう。
そして、もし僕とARIAの魔術リンクが途切れるとARIAは
そんな選択、あの合理に全てを持っていかれたような思考をするARIAがするとは思えないがーー
「ーーはい、マスター」
そんな考え、僕の呟き一つで全て崩れ去った。
「お、おまっ!?顕現なんかしたら消えるぞ!戻れ!!」
思わず、いつもの口調からかけ離れた言葉が口から飛び出す。
今すぐ魔術リンクを再接続すれば、まだ消えない可能性も存在するのだから。
「その要求、拒否させていただきます。そしてできれば、今すぐにこの場所から退避してください」
「んなっ?!」
魔術リンクが繋がっていた頃ならば、僕はARIAへの絶対的な命令権を所持していただろう。
だが、今はもう僕とARIAの間に魔術リンクは接続されていない。
僕とARIAに、もう繋がりはない。
だからなのか、僕の要求をARIAは最も簡単に拒否してしまった。
「く...ッ」
暴走体と肉弾戦を繰り広げるARIAを眺める。
僕もいますぐに先頭に参加したいが、肉弾戦は僕のだいの苦手分野。
普通の人間よりかは肉弾戦が強けれど、されどその程度でしかない。
僕が特化するのは、魔術全般。
だけどの魔術も、
「マスター!早くここから退避してください...ッ!」
「だけどこのままだとアリアがッ...」
叫んだところで気づいた。
どうしてか、僕はARIAが消えて欲しくないと思っていると。
所詮、ARIAは僕が造った人工知能だ。
消えても、また魔術を発動すれば、今のARIAとは違うとはいえ、また同じような機能をする人工知能は作ることができる。
そう、僕は
だから僕はーー
「...ありがとう、アリア」
ーーどこか違和感の残る自身の感情を押し殺し、この場から退避していった。
ーーーー Artificial Responsive Intelligence Agent『通称: ARIA』視点ーーーー
マスターがこの場から退避したことを確認し、即座に次の魔術を展開する。
私は、魔術だ。
所詮、マスターの研究を補助するために造られたに過ぎない、魔術なのだ。
ただただ、学習と解析、そしてコピーと最適化に特化した、そんな魔術。
つまり、私の持つこの『意思』のようなものは、計算の結果。
いくら私が消えたくないと願ったところで、それはこれまでの経験、そして私が受け継いでいる
そう、自身に言い聞かせる。
無理やり、納得させる。
そうでもしないと、今にも私は崩れ落ちてしまいそうだから。
今から私が実行する魔術は簡単。
この、暴走体の構造を、全て解析。
そして、正反対の属性を持つ魔術を作り出し、暴走体にぶつけ言葉通り消滅させる。
マスターと考え、そしてマスターでは無理だと考えたこの魔術。
...マスターのことを考えるのはやめよう。
ともかく、私はそんな夢のような魔術を実行するのだ。
ーー無論、そのような強力な魔術を魔術リンクの切れた後少しで消えてしまう私が代償無しで使えるわけがない。
私が今から代償にするのは、私という、『ARIA』という存在に関する記憶全て。
マスターならもしや...と思わないことはないが、所詮転生体であり覚醒前のマスターならば期待はあまりできない。
この代償というのは、そこらの中級神の記憶からも消滅してしまうであろう、そんなものなのだから。
悲しいし、苦しい。
消えたくなんてないし、マスターに忘れられたくもない。
まだまだマスターと研究したいし、もっとマスターの役にも立ちたい。
されど、それは叶わない。
もう、計算はできている。
後戻りはできない。私はここで消える
胸が苦しくなる。
痛覚なんてないはずなのに、一挙一動全てに激痛が伴う。
...もう、いいか。
マスターのために死ねるんだ。
そう、私は思考を半ば無理やり中断し、唱えた。
ーー《|因果断絶呪式《アヴァロン・セヴァランス》》
その瞬間、暴走体は崩壊した。
ーーーーー あとがき ーーーーー
アリア、死す
割と心情描写に力を入れたかったんだけどなんか途中でめんどくさくなってやめてしまった
でも結構いい出来だと思うんですがどうでしょう
アリアはねぇ、地味に気に入ってたんだけど僕最初にアリア出すかって決めた時に最後には消えてもらおうって決めてたから
登場話数、たったの2話
だけどこれからも閑話とかでアリアと奏多の記録みたいなの出す予定だからぜひ楽しみにしといてね!
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