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呪い

 これは、私が経験したことの記録である。

 もし君がこれを読んでいるなら、私はもうこの世にはいないだろう。

 だが、だからこそ、君に伝えたい。

 君が、この物語の続きを担う者になったということを。

 あの出来事は、決して渋谷だけの話ではない。

 黒染明神の祠は、都内のいたるところに、いまだ埋もれている。

 完全に封印されたわけではない。

 いくつかは、すでに目覚めかけているかもしれない。

 彼ら――黒染の信徒たちは今も動いている。

 ずっと機を待ち続けていた。

 江戸が築かれたときから、幕末を越え、関東大震災を越え、戦争さえも越えてきた。

 そして今、再開発という錦の御旗を手に入れ、都と国家を欺き、“神の身体”を再構成しようとしている。

 このままでは、東京そのものが、彼らの“聖地”として再起動される。

 いいか?

 これは単なるオカルトではない。

 政治と宗教と都市開発が絡み合った、現代における、本物の“神話”なのだ。

 私は、止められなかった。

 間に合わなかった。

 だから、託す。

 日野君が私に託したように、私から君へ――この物語を読む、君に。

 私は今、渋谷の路地裏で、血を流しながら、これを書いている。

 手が震えてうまくキーが打てない。

 息も苦しい。

 SNSや動画サイトに投稿する方法も考えた。

 だが、“彼ら”の影は想像以上に深い。おそらくこの事件も隠ぺいされる。

 だから、私が投稿しても、おそらく検閲AIが即座にフラグを立て、消される。

 私のような無名の研究者の発信では、仮に誰かの目に触れても、すぐに忘れ去られてしまうだろう。

 それに、あちら側も、私が生き延びたことに気づいているはずだ。

 だから、小説投稿サイトを選んだ。

 今も、比較的検閲が緩く、フィクションとしてなら誰でも発表できる余地が残されている。

 ちょうどホラー作品のコンテストも行われていると知り、そこに混ぜ込めば、少なくとも数百人には届く。

 もし誰か一人でも真実に気づいてくれれば、それが希望の火種になる。

 物語という形なら、“彼ら”の目をすり抜けることができるかもしれない。

 これは私の“呪い”であり、そして“願い”でもある。

 どうか、“彼ら”を止めてくれ。

 封印を解こうとするその手を、断ち切ってくれ。

 都市に潜む“神の芽”を見つけて――踏みつぶしてくれ。

 宗教学者としてではなく、

 一人の人間として。

 命を賭して伝える、私の最後の言葉だ。

 ――たのむ。どうか、彼らを……とめ…て……k、れ……。

 ごめ……ん。まd……う……。




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