市川秋(いちかわ・あき)は、デジタルメンタリズム総合芸術専門学院二年生の選択授業で、本当になんとなくとしか言いようがないのだけれど、デッサンを選択した。
初めは自分の手から始まり、静物が対象になる。正直、先生からはあきれられていたし、自分としても上達しようなどという気持ちは露とも無かった。
その人の横腹には北斗七星のように並ぶホクロがある。まず、そのことがわかった。
手、静物、に続いて、今度はヌードモデルを対象にデッサンをすることになった。
(ヌードモデルかぁ…。どんな人が来るだろう)そう思う秋には、女性経験が無かった。専門二年生、19歳。まだ、遅くはない、と秋は信じていた。
先生が学生たちに言う。
「スマホの電源は必ず落としておくように。マナーモードではダメです。着信とかアラームやめてください。ね。これから来てもらうモデルさんは、皆さんにもしかしたら撮影されるんじゃないかという不安を持っていらっしゃると思います。少しでも不安に思わせることは禁止。電子音はやめてください。スマートウォッチとかも、ダメね。音が出ないように」
学生たちは厳重な注意を受けたうえで、ヌードモデルを迎えた。
服を脱いだ彼女の横腹には、北斗七星のように並ぶホクロがあった。
秋はちょうど、彼女が向かって右側で、体の前と背中が両方見えるような位置に陣取っていた。
彼女はスタイルが良かった。そこまでバストが大きいというわけではないけれど、ほどよい肉付きのある彼女の体に、秋は惚れ込んた。もう少しウエイトがいくと、段々になってしまうという前の段階でぜい肉はストップしている彼女の裸体だった。
秋は不思議な感覚を覚えた。女性のヌードモデルがくると聞いていた秋は、女性経験が無かったので、もしかしたら興奮して勃っちゃったりするかななんて心配もしていたのだ。けれど、やって来た彼女のあまりの堂々としたモデルとしての佇まいに、秋は飲まれた。入浴施設の男風呂で男の裸を見ても何とも思わないのと同一の感覚だった。きっと、男女の関係になったとしたら、女性の恥ずかしそうな振る舞いに男はきっと興奮するものなのだろう、と秋は想像していた。
【つづく】