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第10話 送り先不明の手紙

 汐花様

 どこに送ったらいいかわからないから、ボトルにでも入れて海にでも流そうかとも思いましたが、そんなことを本当に実行するほど、僕はロマンチストじゃありません。

 僕は、結局、一年とちょっと勉強して第二志望の大学に合格できました。親もその大学ならと納得してくれているみたいてます。

 今まで散々裏切ってきたので、それをなんとか取り戻せるように頑張るしかありません。

 汐花さんからは、あなたのことをすぐ忘れるように、と強く言われたけれど、忘れられるわけないじゃないですか。

 どうせ、酒に睡眠薬盛って眠らせてうやむやにするつもりだったとしても、一度でも駆け落ちすること、ダメだったら心中することに賛成してくれたことは、今でも僕の心に温かい思い出として残っています。

 あなたのことを早く忘れなきゃな、とは自分でも思うのです。でも、専門の教室でヌードモデルとして会った汐花さん。自分のアパートで密会を重ねた汐花さん。公園でその時のあなたの家族と僕の心を踏みにじった汐花さん。ぜんぶ、忘れられません。

 でも、いつか、忘れるんだろうな。それなりに良い大学に入れたので、あとは、専門やめて大学に入り直した理由をちゃんと説明できるように考えて、就活頑張って、就職して、家庭持って、っていう感じですかね?

 あの、クソ童貞だった秋が偉そうなことを言っていると、笑ってください、汐花さん。

 まあ、でも、さすがに、あなたの元旦那さんの年収1500万円なんて夢の夢なんだろうな。結婚、ましてや子どもを持つなんて……ねえ?今はそれだけの時代ではないとも言うけれども……。

 それならば、あなたと駆け落ちした未来を想像してしまいます。海辺の街で、めちゃくちゃ上手い定食を出す飲食店とかやりたかったな。なんだか、人生に疲れたような人が来て、メシをたらふく食って、悩みなんかふっとんじゃって、もう一度生き直せるようなそんな店。

 なに言ってるんだろ、僕?そういう店を求めてるのはなによりも、今の僕かもしれません。

 とにかく、うん、僕は生きるしかない。あなたと死ねなかったんだから、他に心中してくれる人を探します。なんてのは冗談て、ちゃんと一緒に生きてくれる人を見つけなきゃなあ。不安だなあ。でも、不安があるっていうのも、また、生きてるからこそだもんな。

 長くなりました。

 最後にこれだけは言わせてください。僕の人生、最後の恋はまだどうなるか分かりません。でも、間違いなくハッキリと断言できます。初恋の相手はあなたでした。


 市川秋


【つづく】

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