ページが終わる音がした。空間の端から白に溶けていく。
言葉のない風が吹き、音のない扉が開いた。
翔太はそこに足を踏み入れた。沈黙の図書館の最深層。
名を持たぬ空間。ーー最終図書館(ザ・エンド・ライブラリ)
そこには一冊の本すら置かれていなかった。
壁も棚もない。ただ、空間だけが広がっていた。
語られたことのない真っ白な世界。
やがてその中心に1人の人影が立つ。
背は翔太と同じくらい。顔は見えない。
だが、その姿はどこか懐かしかった。
「……君は……?」
その影は言葉を発さない。だが、翔太には伝わった。
言葉を通さず意味だけが流れ込んでくる。
「語る者よ。お前が書いた物語は幾つの沈黙を壊したか」
「わからない。でも語ってわかったことは、もし僕が語らなかったら何も始まっていなかった。これだけは確かだと思う。」
「では問う。“最後の記述”をお前はするのか?」
「・・・最後?」
「この世界にはまだ書かれていない本が一冊ある。
その名はーー世界
書くことで全てが決まる。過去も、未来も、存在の有無も。」
すると翔太の目の前に一冊の真っ白い書物が現れる。
「これを記せば世界が完成する??」
影は頷かない。ただ沈黙を装ったままそこに立っている。
「語れば、全てが決まる。
語らなければ、全てが残る。
語ることは終わらせることでもある。
お前は終わらせる者になるか?」
翔太はその言葉に対し震える手で、書の表紙に触れた。
重い。
それは言葉そのものの重み。
かつてエノクが語った、「語りすぎの罪」
かつて自分が感じた語らないことの恐怖。
どちらも決して間違いではない。
だから翔太は決めた。
彼はその表紙に一行だけ書く。筆が走る。
「この世界にはまだ語られなかった物語がまだ残されている。」
そして彼はあえてこれ以上記さなかった。
影が微かに笑ったように見えた。
「それが、選択か。」
「うん。僕は語ることはやめないけど決して全てを語ることはないと思う。“語られなかった物語たち”にも生きる意味があると思うから。」
白い本が静かに閉じていく。
そして、空間の奥から光が差し込む。
図書館が揺れ始めた。
沈黙が言葉と共に静かに溶けていく。
空白だった棚に再び物語の匂いが戻る。
それは翔太がかつて語った物語たち。
語りかけられた世界の息吹。
図書館の出口がゆっくりと開いた。
そこに広がっていた光景は見覚えのある街角だった。
暗号を見つけたあの日の場所。全ての始まりだった場所。
けれど、今はもう、翔太は見逃さない。
彼はノートを取り出す。そして、書いた。
「この街にもまだ語られてない物語が必ずある。」
それが全ての始まり。
そして、終わり。
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あとがき
どうもSEVENRIGHTです。
これでこの小説は完結です。ご覧いただきありがとうございました。
最後にコメントといいねをよろしくお願いします🙏