目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

最終話 沈黙の記憶

ページが終わる音がした。空間の端から白に溶けていく。

言葉のない風が吹き、音のない扉が開いた。

翔太はそこに足を踏み入れた。沈黙の図書館の最深層。

名を持たぬ空間。ーー最終図書館(ザ・エンド・ライブラリ)

そこには一冊の本すら置かれていなかった。

壁も棚もない。ただ、空間だけが広がっていた。

語られたことのない真っ白な世界。

やがてその中心に1人の人影が立つ。

背は翔太と同じくらい。顔は見えない。

だが、その姿はどこか懐かしかった。


「……君は……?」


その影は言葉を発さない。だが、翔太には伝わった。

言葉を通さず意味だけが流れ込んでくる。


「語る者よ。お前が書いた物語は幾つの沈黙を壊したか」


「わからない。でも語ってわかったことは、もし僕が語らなかったら何も始まっていなかった。これだけは確かだと思う。」


「では問う。“最後の記述”をお前はするのか?」


「・・・最後?」


「この世界にはまだ書かれていない本が一冊ある。

その名はーー世界

書くことで全てが決まる。過去も、未来も、存在の有無も。」


すると翔太の目の前に一冊の真っ白い書物が現れる。


「これを記せば世界が完成する??」


影は頷かない。ただ沈黙を装ったままそこに立っている。


「語れば、全てが決まる。

語らなければ、全てが残る。

語ることは終わらせることでもある。

お前は終わらせる者になるか?」


翔太はその言葉に対し震える手で、書の表紙に触れた。

重い。

それは言葉そのものの重み。

かつてエノクが語った、「語りすぎの罪」

かつて自分が感じた語らないことの恐怖。

どちらも決して間違いではない。

だから翔太は決めた。

彼はその表紙に一行だけ書く。筆が走る。


「この世界にはまだ語られなかった物語がまだ残されている。」


そして彼はあえてこれ以上記さなかった。

影が微かに笑ったように見えた。


「それが、選択か。」


「うん。僕は語ることはやめないけど決して全てを語ることはないと思う。“語られなかった物語たち”にも生きる意味があると思うから。」


白い本が静かに閉じていく。

そして、空間の奥から光が差し込む。

図書館が揺れ始めた。

沈黙が言葉と共に静かに溶けていく。

空白だった棚に再び物語の匂いが戻る。

それは翔太がかつて語った物語たち。

語りかけられた世界の息吹。

図書館の出口がゆっくりと開いた。

そこに広がっていた光景は見覚えのある街角だった。

暗号を見つけたあの日の場所。全ての始まりだった場所。

けれど、今はもう、翔太は見逃さない。

彼はノートを取り出す。そして、書いた。


「この街にもまだ語られてない物語が必ずある。」


それが全ての始まり。

そして、終わり。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき

どうもSEVENRIGHTです。

これでこの小説は完結です。ご覧いただきありがとうございました。


最後にコメントといいねをよろしくお願いします🙏


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?