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メリュジーヌの伝説

※関連書籍『妖精メリュジーヌ物語とリュジニャン家の興亡 』を参照して著者独自に紹介する。



 かつて、フランスにレモンダンという騎士がいた。彼は不幸に見舞われていたところを、泉で美しい女性と巡り会ったことで救われたという。

 女性の名はメリュジーヌ。彼女には魔法のような不思議な能力があり、それで助けてくれたのだ。


 二人は恋に落ち、メリュジーヌの名の一部を取ったリュジニャン王家の始祖となり、大いに繁栄した。

 レモンダンは幸福を獲得したが、二つだけ気掛かりなことがあった。

 一つは、メリュジーヌが毎週土曜に行う自分の水浴びを覗かないよう彼に忠告していたこと。もう一つは、二人の間に生まれる奇妙な子供たちのことだった。

 レモンダンとメリュジーヌは十人もの子宝に恵まれたが、全員がおのおの、一つ目であったり牙があったり頬にライオンの足があったりという奇異な容姿だったのである。おまけに、彼らには英雄的な才能があった。

 それでもレモンダンは妻を愛していたので、どちらのこともありのままに受け入れていた。ところがあるとき、ふとしたきっかけで彼は妻の土曜の水浴びを覗いてしまう。すると彼女は、下半身が長大な水蛇と化していたのである。

 ……レモンダンは、それでも妻への愛情から黙っていることにした。

 そんな折。二人の息子で、勇猛かつ粗暴なジョフロアが、修道士になった弟のフロモンを気に入らずに憤慨し、彼を修道院ごと焼き払ってしまった。

 この凶報にレモンダンは嘆き悲しみ、ついにメリュジーヌを「おまえのような蛇女の子だからこんなことになったのではないか!」などと罵倒したという。


 瞬間、なにもかもが終わった。


 実は、メリュジーヌは人と妖精の男女間にできた子だった。だが〝お産を覗いてはならない〟という妖精の母との約束を破った父のせいで、父親のいる人間界からは離れて母親と妖精界で育ったのだ。

 こうした経緯からメリュジーヌは父を恨む少女に育ち、あるとき姉妹と共謀して魔法による復讐をしてしまう。けれどもそれは、まだ夫を愛していた母の望まないことだった。

 かくしてメリュジーヌは罰として、姉妹と共に母妖精からそれぞれ違った呪いを掛けられた。彼女が受けたものは、〝毎週土曜に下半身が蛇に変化するが、夫となる人物が受け入れてくれれば幸せになれる〟という内容だった。


 にも拘わらず、レモンダンはメリュジーヌを拒絶してしまったのだ。故に、二人は離別せねばならなくなったのである。

 彼女は水蛇の姿となってどこかへ飛び去り、以後、リュジニャン家の末裔が死ぬ三日前にそのそばに現れて涙にくれる妖精になったという。

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