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第36話『思惑が動き出す時間』

 捜索終了と思われていた、工場跡地にて。


 秋兎あきとたち一行が好き勝手に暴れまわった跡地であり、世界に闇をもたらそうとする組織が悪行をもくろんでいた、複数ある中の1拠点。

 調査を行ったあのとき、痕跡と断定できる装置が装着されていたモンスターの討伐や僅かながらに発見した資料はあれど、そこには組織の人間はたった1人として確認できなかった。


 しかし実際は違う。


 一行は確かに操作し回ったが発見できず、確認不足と言われたその通りだが、索敵に特化している人間が待機していたことに原因がある。

 秋兎あきとやクリムゾンが戦闘したその下、地下数十メートルの場所に複数隊のモンスターが待機してしたのだ。


 そして今、それら30体ものモンスターは隠し大型エレベーターにより地上へ露出し、建物の外に居る。

 モンスターが市街地などへ侵攻し始めてしまっては、一般人はただ逃げ惑うことしかできず、被害は計り知れない。


 刻一刻と絶望の幕開けが近づいていた。




 思春期の少年少女たちが通う、学園にて。


 白昼堂々、それらは学園の敷地内へ侵入開始――その数20。

 校門前に駐車してある大型トラックによって搬送され、騒ぎが大きくなる前に人質の確保を行おうとする巧妙な作戦が見て取れる。


 無慈悲とも言えるのが、なんの力も持たない少年少女たちが通う学園にはモンスターと対峙できる人間が限られていること。

 一般人である子供たちが抵抗することはできず、戦える人間も下手に動くことができない。

 そして、それを逆手に取り正面校門だけではなく、裏門やその他入り口も組織の意図通りに動くモンスターなどが待ち構えている――その数、各20。


 危機的状況に陥っていることを知らない生徒たちは、今も普通に学園生活を送っており、大人たちもまた現状を全く把握していない。


 状況を把握している人間は数が限られており、しかしそれ故に行動を宣言されてしまう。

 なぜなら、この包囲網に各々が対処するだけならまだしも、生徒らが暴走してしまった場合、その混乱を制御することは不可能だから。




 各々の思いを抱き赴く、ダンジョンにて。


 第1階層にて、すでに準備は整えられており、地上への進出を今か今かとモンスターたちは待機している――その数50。

 待機しているモンスターたちに統一性はなく、生息階層もまたバラバラ。

 強さも大きさも違うが、その数は驚異的で暴力的でもある。


 まず駆け出しの探索者は手も足も出ずに蹂躙されるだけではなく、ダンジョンを管理している施設には一般人の従業員が多い。

 それだけではなく、施設の外へ1歩でもモンスター群が出てしまえば、探索者とは無縁の一般人が生活している圏内へ飛び出てしまう。

 もしもそうなってしまえば被害は甚大で、小規模な被害では収まらず災害級の被害が出るのは容易に想像がつく。


 この状況の加え、最悪に向かう条件はまだある。

 集結しているモンスターの中には、駆け出し探索者でも相合可能な種類はいるが、当然そうじゃないモンスターも混合していて。

 ならば中堅や上級探索者が対応すればいいが、彼ら彼女らは既に普段通り下層へ進行いる。

 このことから、事実を把握するまでに時間がかかるだけではなく駆け付けるまでの時間もかかってしまう。


 それに、間違いなく状況は混乱を強いられる。

 なぜなら、これから3か所にて同時に同様の騒動が発生してしまうのだから。




「……さて、どうしたものか」


 学園長は、机の上に肘をつき手を握っていた。

 既に防犯カメラによって映し出されている状況に、迅速な判断が要求されており、時間がなくとも思考を巡らせる。


(どうしてこんな状況になるまで発見できなかったんだ……という後悔は今しても仕方がない)


 人影がないことから、運転手とみられる人間は既に対比しており、方向にあったことから遠隔操作によって行動するモンスターだということまでは考察が付く。

 しかしだからこそ、急いで指示を出してしまえば生徒たちが混乱し、暴走した生徒が敷地の外へ逃走してしまえば被害の把握も収集も難しくなる。


「んー……」


 学園長は眉間にしわを寄せ、目を閉じる。


 急げば被害状況が未知数となり、遅れてもまた同じ。

 そして悩みの種はまだ続く。


「な、なんだと。まさか本当に最悪の想定が当たってしまうなんてな……」


 続く報告。


 ダンジョン内にモンスター多数、それに加え、調査に踏み切った工場跡地にて同様にモンスター多数。

 未曽有の大被害となるのは容易に想像ができ、自分たちが置かれている状況から、それらすべてに迅速な対応をすることは叶わず。


 もはや国家の危機ともいえる状況下に、嫌な汗が額に滲む。


「もう、我々が対処できる状況ではない。すぐに緊急連絡を入れ――」


 連絡をしようとしたそのときだった。


 もう一報の連絡が届き、手を止める。


「――優秀な部下が居てくれて助かった。ならば一ヵ所は大丈夫だな」


 少しだけ安堵したものの、第一優先で守らなければならない学園は危機的状況のままに変わりない。


「ダンジョンの方は祈るしかない」


 決断した学園長は緊急連絡用の合言葉を放送で流そうとしたときだった。


 さらなる一報に手を止め、記されている文言に目を疑い、すぐに通話ボタンを押した。

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