パワーレベリングを終えて帰ってきたわけだけど。
時間的な猶予はそこまでないと言っても、強制的に起こしてしまうと集中力低下に繋がってしまう。
こんな状況とはいえ、いろいろあったんだし心身共に休んでもらおう。
でもそうなると、今の僕にできることは……ないな。
「……」
可愛らしい表情で寝ている少女を前に、さてどうしたものか。
羽織るための布団やコートを持っているわけじゃないから、本当に何もできない。
できることがあるとしたら、ボス攻略を終えて地上に戻ったときのことを考えるぐらいかな。
まずは食事などの休養を取るとして。
そこからは、今後も活動を続けていくわけだから遠からずあの2人と鉢合わせる可能性は大きい。
ステータスの暴力で制圧しても、それは一時的な鬱憤を晴らすことしかできないし、傍から見たら逆にこちらの方が悪印象となってしまう。
順当に考えるなら、僕を管理したい人たちに一報入れたり、探索者協会へ報告するのがいいんだろうね。
そうしたら正当な処罰が下されるだろうし、接近禁止などの措置を講じてくれるはず。
今後の活動をしていくうえで一番大事なこと。
「……」
でも難しいところが、それではあの2人は再度同じことを別の人にすると思う。
あの異常性は、注意されただけで治るようなものじゃない。
ここまで来ると、警察などの機関によって制裁を下されない限りは解決とは言えないのかな。
難しい……できることなら、最後はそういった人たちに任せていいとしても、僕たちの手で仕返しをしてやりたい気持ちは拭いきれない。
いや、少なくとも僕はいいとして、
「むにゃむにゃむにゃ」
可愛い寝言が聞こえてくるけど、莉奈のためにも聞かなかったことにしておこう。
――もう17時か。
できるだけ移動を速めていたつもりでも、時間の経過はあっという間だ。
昼食を摂らず、このままでは晩食まで口にすることができない。
ここまで来ると、本当に時間的な猶予がないな。
「――ふぅぇ?」
「おはよう、莉奈」
「おふぁよぉ~」
ギリギリよだれが垂れそうになったタイミングで、体を起こして伸ばしている。
なんとも気持ちの良さそうな目覚めだが。
「あっ」
莉奈のお腹から『ぐぅ~っ』という音が聞こえてきた。
「お恥ずかしい」
「しょうがないよ、時間も時間だから」
「ほ、本当だ! もう17時じゃん!」
時間を確認できるのは、本当に便利だ。
あっちの世界だと、こんなデジタルじゃなかったし、もはや時間を確認するというより空腹になったら食事を摂る、みたいな感じだった。
「あ、そうそう」
「ひぃっ、よだれがぁーっ!」
「それはそうなんだけど、違う違う」
焦って袖でよだれを拭っている莉奈へ、なんとなく凄く怒られそうな予感がしながら事実を伝える。
「莉奈、ステータスを確認してみて」
「うん――って、え、え? ど、どういうこと????」
「実は。莉奈が気持ちよさそうに眠っている間、パワーレベリングをしていたんだ」
「何それ? パワーレベリング?」
「通常だと高レベルの人が、低レベルの人を強引にレベルを上げるってことなんだけど」
「強引にレベルを上げるってどういう意味?」
「そうだね、立場が違うけど現状に置き換えてみよう。僕はここら辺一帯のモンスターと余裕で戦える、でも莉奈はそうじゃない」
「うんうん」
「だから、莉奈は安全地帯で待機していて、その間に僕がモンスターを討伐しまくる。すると、莉奈はどうなる?」
「私は待機しているだけでレベルが上が……る……ちょ、ちょっと待ってよ。もしかして、
「そういうことになるね」
なんとなくの予感が的中してしまった。
「なんでそんな危ないことをしたの! いや、危なくはないんだろうけど、でも!」
「落ち着いて、なんだかちぐはぐになってるよ」
「それじゃあ、私は能天気に寝てるだけでレベルアップしちゃって――しかも、レベル15って凄すぎる! いやいや、そうじゃなくて。そうじゃなくはないんだけど」
「落ち着いて落ち着いて、深呼吸深呼吸。言いたいことはわかる、無茶し過ぎってことだよね」
「すぅーふぅー。そうだよ、それ! うわ、しかも
「不可抗力っていうか、まあ自然にね」
本当、どれぐらいでレベルアップできるのか把握できないのは不便すぎる。
こればかりは、どっちの世界でもずっと言い続けていこうと思う。
別にレベルアップしたくないわけじゃない、どれぐらい倒したらレベルアップできるのか把握させてほしいんだ。
「でもこれで、この階層を怯えずに済む」
「そうなの?」
「うん。さすがに大手を振って余裕というわけじゃないけど」
「レベルとかステータスがそうでも、心はそうじゃないからあんまり変わらないような気もするけど」
「そこは慣れだね」
「頑張ります」
「じゃあ、休憩はここら辺で終わりとして。第11階層を突破しよう」
「いろいろと理解が追いついていないけど、私も頑張るよっ!」