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呪いの子は楽園で王子達に愛される
呪いの子は楽園で王子達に愛される
そらほしー空星ー
恋愛S彼・俺様
2025年06月03日
公開日
5.7万字
連載中
――世界が滅んでも、私を愛してくれる? 火事で孤児院が全焼。生き残ったのは、白髪赤眼の“呪いの子” ――セレフィーナだけだった。 その日から彼女の人生は地獄モード突入。 奴隷として売られ、名前も自由も奪われた少女が、まさか世界の命運を握る存在だったなんて、誰が思った? そんな彼女の前に現れるのは、クセ強すぎるイケメン王子たち!楽園で始まったのは官能的な甘々生活?! 空の王国の騎士にして初恋の人・ネイト。 不器用すぎるツンデレ戦士・ルーク。 軽やかすぎるエルフの王子・レオ。 闇の王子で芸術系男子・ノワール。 光と闇、正義と呪い、過去と未来。 セレフィーナの選択が、すべてを変える―― 「愛してる。神に背いてでも、君を守る」 呪いすら甘く溶かす、恋と運命のダークファンタジー、ここに開幕! ※ムーンライトノベルズで先行公開中です

序章:呪われし少女

第1話 セレフィーナ

冬の朝、薄曇りの空が灰色の光を落とす中、古びた孤児院が静かにたたずんでいた。その一角に、小さな影がひとつ。


まるで冬の森に咲いた白い花のように、ひっそりとそこにいる少女セレフィーナ。まだ五歳の幼さを残しているはずなのに、その姿にはどこか人ならぬ気配があった。


肌は雪のように白く、触れれば溶けてしまいそうなほど繊細。髪は白銀にきらめき、陽の光を受けると淡く光を帯びる。風が吹けば、その細い髪がふわりと舞う。


そして、何よりも印象的だったのはその顔は完璧に整った目鼻立ちに、表情の少ない白い肌。まるで精巧に作られた磁器の人形のようで、美しさと無垢さが奇妙に同居していた。


瞳は深い紅。澄んだ宝石のように光を宿していたが、その色はあまりに異質で、人々の心に恐れを生んだ。


「怖い……」

「あれ、ほんとに人間?」

「化け物みたい……」


囁きは、空気のように絶え間なくセレフィーナを取り巻いていた。


彼女は何も言わない。ただ黙って、教室の隅の椅子に座っている。小さな背中はかすかに震え、目は伏せられ、唇はきゅっと閉じられていた。言葉はとうに彼女から離れ、心には重たい鍵がかけられているようだった。


先生たちでさえ、彼女を避けるように接した。視線を向けることもなく、まるでそこにいないかのように振る舞った。存在を認めることすら恐れているようだった。


けれど、セレフィーナは時折、窓の外を静かに見つめていた。

その目には、ごくかすかに、誰にも見えない光が灯っていた。


淡く、けれど確かに燃えるその光は、厳しい寒さの中でも消えずに揺れていた。

それは、彼女自身さえ気づいていない――希望という名の、小さな命の炎だった。


ある日のことだった。昼休み。廊下からは、子どもたちの笑い声や足音が響いていた。

けれど教室の隅、ひとりぽつんと座るセレフィーナのまわりには、別の時間が流れていた。


机の引き出しに、違和感を覚える。そっと開けると、そこにはぐしゃぐしゃになった給食のパンが押し込まれていた。

汁物のスープまでかけられ、ぬめるような臭いとともに、湿ったパンが引き出しの底にべったりと張り付いている。


「おまえの目が気持ち悪いから、見ると吐きそうになるんだって」


背後から、誰かの声。

振り返ったその先には、誰もいなかった。ただ、遠ざかるような笑い声が残っていた。


別の日には、彼女の制服が洗濯場に投げ捨てられていた。

泥水に浸され、ぐしゃぐしゃに踏みつけられた布は、まるで誰かの憎しみをそのまま吸い込んでいるかのようだった。


セレフィーナは黙って拾い、黙って洗った。冷たい水にさらされたその小さな手は、真っ赤に染まっていた。


「触らないで。呪われるから」


廊下ですれ違った先生が、思わず他の生徒を引き寄せる。その目は、何か汚れたものを見るようだった。


またある夜。彼女の枕元に、人形の頭が置かれていた。

引き裂かれた顔、赤い絵の具で塗りつぶされた瞳。胸には小さく折りたたまれた紙が押し込まれており、そこにはたった一言、こう書かれていた――「しね」。


それでも、セレフィーナは泣かなかった。

泣くという感情がどこにしまわれているのか、もう思い出せなかった。


ただ、唇をかたく結び、すべてを黙って受け入れていた。

誰にも届かない声なら、最初から発さない方がましだ。

そう思ったその日から、彼女は心に鍵をかけた。


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