翌朝。僕が目覚めたのは九時半を過ぎていた。詩織は横にいなかった。きっと仕事に行ったのだろう。起こしてくれればいいのに。まあ、起こさないのは彼女なりの気遣いだろう。 今回は朝帰りというやつだ。交際する話はしていない。それをすると僕としては、自由がなくなるから言わない。詩織はどう思っているのだろう。
僕は起き上がりテーブルの上にメモ紙が置いてあるのを見付けた。それを読んでみると、
「朝ご飯作ってあるから食べて行ってね。それと、夜勤頑張ってね。あたしは仕事に行ってくるよ。鍵はかけて帰ってね。じゃあ」 そう書いてあった。メモ紙の横に朝ご飯のおかずと鍵が置かれていた。目玉焼きと、炒めたウインナーが皿にありラップで包まれていた。それと、インスタントの味噌汁があった。ありがたくいただくか。キッチンの方を見ると、やかんが用意されていた。お湯を沸かして味噌汁を食べよう。皿のおかずは、電子レンジで温めた。なんだか奥さんみたいだ。嬉しい。でも、今は交際の約束もしていないし、結婚もするつもりはない。貯金もある程度溜まって、お互いに結婚する意思が固まったら考えてみよう。きっと、詩織も今すぐに結婚とかは考えていないだろう。
僕は、彼女が作ってくれた朝食をありがたくいただき、とりあえず自宅に帰ることにした。
帰宅してみると、妹の心愛と母が居間にいた。僕は二人に声を掛けた。
「おはよう」
心愛が敏感に反応した。
「あ! お兄ちゃんだ! 今までどこにいたの?」
答えにくい質問だ。
僕が黙っていると母は言った。
「新太郎、彼女出来たの?」
ストレートな質問で慌てて否定した。
「いやいや、違うよ! 彼女じゃない」
妹はすぐさま言った。
「でも、女の人のところでしょ!?」
「まあな」
心愛は言った
。「やっぱりそうだ。彼女じゃん! でも、どうしてそんな暗い表情してるの?」
僕は強い口調で言った。「だから彼女じゃないってば!」
母と妹は黙った。そして僕は言った。
「交際する約束はしていないよ」
母は驚いたような口調で言った。
「え! それで朝帰り!? だらしないわね!」
僕は言い返した。
「だらしない? そんなことはない!」
僕は腹がたったので、自分の部屋に戻った。
僕は独り言を言っていた。
「だらしない? そんなことない! ふざけやがって!」
傍にあった枕を壁に投げつけた。
でも、ひとつ思うことがある。ここまで交際していないことを全否定するのは、詩織に失礼じゃないかな、と。でも、それが事実。それにこの先、詩織とどうなるかわからない。だから、お互いのことをもっと知ってからでも交際するのは遅くない。焦る必要も全くない。