今夜も僕の方から詩織に手は出さなかった。すると、
「何で何もしてこないの? あたしに興味なくなった?」
落ち込んでいる彼女に僕は静かに囁くように言った。
「いやいや、そうじゃないよ。ただ、詩織が今そういう気分じゃないのかな? と思ったから何もしなかった」
彼女は僕とは反対の方向に寝がえりをうってしまった。
そして、詩織はボソボソと喋りだした。
「新沼さんはいつもそう。あたしから手を出すまで何もしてこない。何で? あたしに魅力を感じないの?」
僕は焦って、
「そ、そんなことはないよ。ただ、仕事で疲れてそういう気分じゃないかもしれないなぁと思うから」
部屋の中は静まり返っている。
「ほんとにそうなの?」
「え、何で?」
少し間を空けてから詩織は言った。
「疲れていたって、興味があったら手を出してくるでしょ、普通」
僕は言った。
「もちろん、興味はあるよ。僕は昔からそういう人なんだ。エッチするのもいいけれど、喋っていたいのさ」
「え? そうだったんだ。知らなかった。だからか。だから、あたしよりたくさん喋るんだね」
僕は誤解が解けたと思い安心した。
「明日は夜勤だよ」 僕がそう言うと詩織は、「あ、そうなんだ。頑張ってね」 詩織はこちらに向き直した。「ねえ」「うん?」「キスして」 僕は体を詩織に近付け、口づけを交わした。彼女は笑みを浮かべた。「嬉しい」「だろ? 僕もだよ」 僕はムラムラしてきて詩織を抱いた。
誤解が解けたあとのエッチは凄く燃えた。だから、無我夢中で詩織を抱いた。詩織も凄く感じていたみたいで、官能的だった。今までここまで気持ち良かったことはない。彼女は何度も昇天したみたいで、僕も三回はイった。
ふー、スッキリした。気持ち良かったし。今度からは、僕のほうからエッチを誘うのもいいかも。そう思えるようになってきた。時刻は夜中の一時過ぎで、今日は土曜日。僕はあした夜勤で夕方からの勤務だからいいけど詩織は仕事なはず。寝なくて大丈夫か。それを伝えると、「エッチの余韻に浸っているんだから、急に現実に戻さないで」「ああ、そうか。ごめん」 詩織は起き上がり、「そういうところ空気読んでよ!」「だよなぁ、ごめん」「別に謝らなくてもいいけどさ」
詩織はベッドから降り、煙草を吸い始めた。
「え! 詩織、煙草吸い始めたの?」
僕は驚いた。
「うん。ストレス解消にね」
僕は思った。僕の失言がストレスになったのかな。それを言ってみると、
「まあ、ちょっと気に障ったからね」
謝らなくていいと言われているから、謝らず僕は黙って詩織を見ていた。