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第二章 距離感ゼロな交際スタート!?

第四話 みんなの前ではクールなのに

 玲奈先輩と付き合い始めてから一週間。

 玲奈先輩が丁寧に教えてくれたおかげで、分からないことばかりだった生徒会書記の仕事も少しずつ慣れてきた。……玲奈先輩との交際には全然慣れないけども!


「会長、資料の確認お願いしていいっすか」


 二年生の先輩が玲奈先輩に声をかけているのが聞こえ、右斜め横にいる彼女をチラリと見る。


「ええ。そこに置いておいて」


 玲奈先輩は資料から目を離さず、クールに対応。


「がんばってるか〜、直人〜。もうちょい綺麗な字で書けよ」

「あはは……。すみません」


 二年生の先輩はバシッと僕の肩を叩き、バタバタと生徒会室から出て行った。僕の字もたしかに上手い方じゃないけど、先輩の字の方が下手なんだよな……。そんなこと言えないけどね!?


 僕がそんなやりとりをしている間にも、玲奈先輩は今度は副会長から話しかけられていた。


「黒瀬さん、ここ間違ってない?」

「どこ?」


 玲奈先輩は表情一つ変えず、副会長が指している箇所を覗きこみ、彼と何か話している。


「あ、ああ、本当だ。すまない、僕の計算ミスだった」


 副会長はメガネをかけ直し、あわててペンを取る。副会長も玲奈先輩並みに完璧に見えるのに、意外と抜けてて可愛いんだよな。


 玲奈先輩は生徒会役員のみんなから頼りにされているみたいで、しょっちゅう誰かしらから相談や報告を受けている。玲奈先輩は嫌な顔一つせずに対応しながら、合間に自分の仕事もテキパキとこなしていく。


 すごすぎる。僕も自分に割り当てられた仕事をしながらも、つい玲奈先輩の方に目がいってしまう。


 窓から沈みかけた夕日が差し、わずかに赤みを帯びた玲奈先輩の黒髪。真剣な表情をした玲奈先輩の横顔があまりにも綺麗で、僕は息をするのさえ忘れてしまいそうになる。


 こんなに有能で美しい人が僕の彼女なんて、やっぱり信じられないよな? 僕の妄想?


 そんなことを考えていたら、生徒会室の時計の針はいつのまにか五時半を指していた。


「今日はそろそろ解散にしましょう」


 玲奈先輩が手を止め、みんなに声をかける。

 そうしたら、役員の先輩たちも荷物を片付け始めた。


「お先に失礼します」

「おつかれさま、また明日」


 一人また一人と帰っていき、ついには僕と玲奈先輩の二人きりになる。その途端、玲奈先輩のキリッとした表情がガラリと変わり、甘えるような目で僕を見てきた。


 ……! みんなといる時はしっかり者で、僕が彼氏なんて嘘だろって思うのに。何で二人になると、急にそういう表情するの? ドキドキしちゃうじゃん!


「あ、じゃあ、僕も……」


 愛想笑いを浮かべ、ゴソゴソと荷物をまとめ始める。


「彼女を置いてどこに行くの」


 玲奈先輩はムッと頬をふくらまし、僕の隣の椅子に移動してきた。


「少し疲れたから、横になるね」

「ど、どうぞ……?」


 こ、ここで?

 疑問に思いながら、僕は首を傾げる。


 すると、玲奈先輩は僕の方にもたれかかり、膝の上に頭を乗せた。


「え、ちょ、え、れ、れれれれ玲奈先輩……!?」


 こ、これって、膝枕……!?

 う、嘘だろ? 玲奈先輩の顔が、僕の膝に……!

 ただのモブ書記の僕がこんなVIP待遇受けてもいいの?


 手の置き場をなくし、僕は両手をバンザイの形にする。

 痴漢の冤罪をかけられたくないからって満員電車で両手を上げている男か、僕は!


「未来の旦那様なんだから、甘えていいよね」


 玲奈先輩は下から見上げ、僕のブレザーの袖を軽く引っ張る。おわー!! それは反則だって!


「未来を知らない直人には伝えておくけど、私、彼氏には甘えたいタイプなの。知っておいてね」

「あ、そ、そうなんですか?」

「直人は、甘えん坊な彼女は嫌い?」


 玲奈先輩は少し不安げな表情で、じっと僕を見つめる。

 え。普段グイグイくるのに、急にそんなしおらしい態度でこられたら、キュンとするんですが。


「え、いや、僕は全然……だ、大歓迎ですけど」


 大歓迎って何だよ! うっかり本音出ちゃったじゃん!


「直人なら、甘えさせてくれると思った」


 玲奈先輩は僕を見つめ、嬉しそうに微笑む。

 あー! なに、この甘い空気。まるで彼氏彼女みたいな感じじゃん。いや、実際そうなんだけどさ。でも、めちゃめちゃ気まずいし、いたたまれないんですが!


「あ、あの! アレですね。玲奈先輩も疲れたり誰かに甘えたくなったりするんですね」

「私だって人間よ?」


 緊張してよく分からないことを口走った僕に対し、玲奈先輩がため息混じりに答える。


「で、ですよね!」


 そう言ったきり、シンとしてしまう。


 え、何かマズイこと言ったかな?

 どうして黙っちゃったんだろ。僕から話題を振るべき?


「みんなは完璧な私を期待しているから、そうでいなくちゃいけないと思ってる。でもね、たまにがんばりすぎて疲れちゃうの」


 だいぶ間があってから、玲奈先輩は伏し目がちにそう言う。玲奈先輩の声は少しだけ掠れていて、いつもの自信に満ち溢れている口調とは違っていた。


 僕にとっては玲奈先輩は違う世界に住んでいる人で、何もかも完璧にこなす人ってイメージだったんだけど。でも、そうじゃないんだろうな。


 言われてみたら、玲奈先輩だって人間だしな。

 外から見たら分からなくても、きっと落ち込んだり苦しくなったりすることもあるんだろう。


「うーん……。僕はそこまでがんばらなくてもいいと思いますけど。無理しないで、疲れたら休んだらいいんじゃないかと」


 言葉を選びながら、自分の考えを彼女に伝える。


 僕なんかがえらそうに言えることじゃないけど、たぶん完璧じゃなくても玲奈先輩は十分魅力的なんじゃないかな。甘えん坊な玲奈先輩もけっこう可愛いし……。


「直人は全然変わってないね」


 玲奈先輩はかすかに頬を染め、目を細める。

 また未来の話?


 僕が何か言う前に、いまだにバンザイしていた右手を彼女に掴まれた。


「頭、撫でて。直人」

「な、撫でるんですか?」

「未来の直人は、いつもそうしてくれるの。だから、今の直人もしてくれたら嬉しいな」


 えええ……。そんなこと言われても……。

 でも、玲奈先輩は甘えたいみたいだし、甘えさせてあげるのも彼氏の役目だよな? よ、よし!


「じゃ、じゃあ、し、失礼します……!」


 心を決め、僕は右手を玲奈先輩の頭に近づける。


 けれど、その手が玲奈先輩の頭の上でブルブルと震えてしまう。お、落ち着け、僕の右手ー!!


 それをじっと見ていた玲奈先輩は、ぷっとおかしそうに吹き出した。


「もう直人ってば。彼女相手にそんなに緊張しないでよ」

「いや、だって、無理ですよ」

「シャイな直人も可愛くて大好きだけど、そろそろ慣れてね。もっと直人といちゃいちゃしたいから」


 そろそろも何も、まだ付き合って一週間なんですが!?

 もっと、なんて、僕にキュン死しろってこと? 心臓一個じゃ足りないよ!


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