目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第13話 救世主、だいたい間違える

「じゃ、誰が行くのよ? この“海の家プロジェクト(仮)”に」


千歳が汗まみれのシャツを引っ張りながら言った。


「俺はは……行けない」


セラスがジムのダンベルを持ち上げながら呟く。滝のような汗、もはや鍛錬の域を超えている。


「セラスさん、ジムの会員対応、あなたがいないと無理だしね」


「むしろ地獄の現代の方が暑さ的に過酷なんだが……」


「レミットは?」


「……この世界線の“蝉の声”が、神の断末魔に聞こえるので、外出したくありません……」


「お、おう……」


「ヨモツは?」


「この“クール埴輪シリーズ”をもっと開発したい……氷属性埴輪とコラボさせる予定……」


「(何言ってるかわかんないけどテンションは伝わる)」


「ネロは?」


「埴輪の調整がまだ甘くて……帰還できる保証が10%しか……」


「そんなので行かせるなよ!!」


ということで、


「行くのは──」


バンッ!


千歳、佳苗、クロエ、そしてリィナが、会社の長机を囲む形で決定した。


「えっ、なんで私が行く流れ!?」


「千歳だからっ☆」


「それだけっ!?」


「わたしも行くわよ。そろそろ現地調査で新しい商機をつかみたい」


クロエのツノがキラーンと光る。


「女神は……なにしに……」


「面白そうだからじゃが?」


(なんかもう、真面目な理由が一人もいない……!)


そして佳苗がウキウキしながら手を挙げた。


「浴衣で行って、イケメンと運命の出会いとか、あったりするのです~?☆」


「うわぁ……いたところでどうしようもできないやつ」


こうして、ピコリーナ・カンパニーからタイムトラベル出張チームが結成されたのだった。


「うちの会社、何屋なの!?」


「とりあえず埴輪でいいんじゃない?」


結局埴輪!?


と、突っ込めたかどうかで埴輪が光出した、千歳たちはその光に包まれる。




「で、どこよここ……」


汗だくの千歳が、うだるような陽射しの中で額をぬぐいながらぼやく。


見渡す限りの草原。目の前には焼け焦げた木々と、遠くでくすぶる煙。


そこにあったのは、見覚えのない異世界感……いや、違う。


「ちょっと、見て! あれ火事じゃないのですは!?」


佳苗が指差した先には、勢いよく燃え上がる茅葺き屋根と、逃げ惑う村人らしき人々の姿。


「村が燃えているようじゃな……」


リィナがまるで天気予報のように淡々とつぶやく。


「いやいや! “ようじゃな”じゃないから! 助けようよ!」


千歳が叫ぶと、クロエがどこからともなく小さな壺を取り出す。


「仕方ないわね。はい。『水吐き埴輪』。一リットル分の水を放出できる埴輪よ。ヨモツの新作」


「一リットル!? 足りるわけないでしょ!? ホースでかけ湯レベル!!」


「デザインは可愛いけど役立たずなのです☆」と佳苗が謎に評価。


「むぅ……この程度では埴輪で鎮火は無理か……。仕方ないのう」


リィナが天を仰ぎ、目を閉じると──


「おいっ、ちょっと待って、またなにかする気でしょ!? あーもー、フラグの音がするー!」


ぽんっ!


空気が揺れ、突然目の前に「藁葺き小屋」が出現した。


「ここをピコリーナ・カンパニー戦国支店とする!」


「ええええええ!?」


「女神すごーい☆ 魔法って便利~!」


「いや、便利だけども! ここ戦国時代じゃないの!? 何してんの!? 村、燃えてるし!!」


「“支店がある=本社もある=組織感がある”という演出じゃ。営業の第一歩よ」


「戦国時代のマーケティング!? 需要どこにあんのよ!!」


そんな混乱のなか、火事の村から駆け寄ってきた住人らしき中年の男が、目を丸くして言う。


「お、おぬしら……もしや、神のつかい……?」


「あ、はい。そうです☆ えっと、神のつかい(営業部)ですっ」


なぜか佳苗が満面の笑顔で肯定した。


「助けてくだされっ! 我らの村が、山賊に焼き払われてしまったのです……!」


「山賊!? 出たよ戦国時代あるある!!」


千歳が頭を抱える横で、クロエのツノがまたピカリと光る。


「……チャンスね」


「なにが!?」


「この状況。つまり“困ってる村”=“救済と支援で信頼獲得”=“のちの取引先化”!」


「どんなビジネスモデルよそれ!!」


「実際、この戦国時代にはまだ“海の家”なんてものは存在しない。競合ゼロ、独占市場、夢のマーケットよ」


「いや、海すら見えてないんだけど!? てかまず消火を──」


「では、募集するのじゃ」


リィナが再び空に向かって何かを念じる。


ぼふっ!


──『ピコリーナ戦国支店・求人チラシ』が空から降ってきた。


『あなたの村、守りませんか? 報酬:米・野菜・あと笑顔 ※食費支給』


『勤務地:異世界(仮)/スキル不要/女神います』


「雑すぎィィィ!」


村人たちはわらわらと集まり、「笑顔……だと……!?」とチラシを見て何か感動している。


「おぬしら……我らを守ってくれるのか……」


「……まぁ、とりあえず宿代代わりに働いてもらって、ついでに埴輪を宣伝してもらえば」


「結局埴輪じゃん!?」


「ねえねえ! わたし、浴衣着てきたんだけど! なんか役に立つかなっ☆」


「現地人に混ざれるとか、そういう次元じゃないし!」


「それより、海の場所、わかるのかしら?」


「海? それなら半日ほど西に歩いたところに──」


「行けるじゃん!! そこに支店出せばいいのよ!」


「まさかの地元民ヒアリング成功!?」


こうして、火事に巻き込まれたはずの一行は、なぜか村を助けつつ、海を目指すという謎の支店展開に舵を切ることになった。


戦国支店、開業。

営業内容:未定。

取扱商品:たぶん埴輪。


そして──


「よし! 目指すは海の家──いや、海の“城”よ!」


「拡大しとるゥーー!!」


了解しました!


「で、うちの戦力で山賊って倒せる?」


千歳がツナ缶を開けながらぼやく。


こんなこともあろうかと、缶詰だけは持ってきてよかった。


「この戦国村に剣士の人材とかいないんですか~?」


佳苗がチラシを手に村を見渡すが、集まってくるのは老人・農民・赤子。


「戦力ゼロ!!」


「ふふふ……そこへ、救世主登場よ」


クロエが懐から取り出したのは、またもや例の異世界求人票。


『異世界からの助っ人も歓迎!』


「まさか、また呼ぶの?」


「もちろん。“戦国人材、戦力不足なら異世界へ”ってどっかで聞いたことあるでしょ?」


──ぽわんっ!


空間がゆがみ、地割れが走り、ゴゴゴゴ……と何かが地中から出現した。


「な、なんか出たァァァァ!!」


「拙者……ゴーレム・S型(戦闘特化)……呼ばれて、参上……」


「来たー!!」


土くれまみれのゴーレムが、ガッシガッシと村を歩くたびに、地面が揺れる。


「戦国時代には不釣り合いにもほどがあるッ!!」


「いや、これは採用です!即採用!!」


クロエが書類に勝手に『雇用契約』のハンコを押す。


「……契約完了。ターゲット:山賊」


そして数時間後──


村から現れた山賊たちは、まるでスイカを潰すかのように、ゴーレムS型によって圧倒された。


「うわああああああ!!」


「なんだこの石の巨人はああああ!!」


「人じゃないのおおお!!」


山賊、壊滅。


村人、歓喜!


「さすが我らのゴーレム様じゃ!!」


「ありがとうピコリーナ・カンパニー戦国支店様!!ありがたやありがたや」


──だが、そのとき。


「……ターゲット、排除完了。周辺の“攻撃対象”、スキャン中……」


「え? なにそれ?」


「拠点からの距離20m圏内、全て敵性可能性──99.9%」


「ちょっと待って? 何スキャンしてるの!?」


「再攻撃開始──」


「やめろおおおおおおお!!」


──ドオオオオン!!


ゴーレムが岩を投げた。村の屋根が吹き飛んだ。納屋が崩れた。炊飯場が跡形もない。


「村ァァァァァアア!!」


「まってまってまって!! 助けたのになんで破壊してんのよ!!!」


「自律判断で“敵性存在の可能性”が高かったので……」


「その判断やめてえええ!!!」


──そして30分後。


「ピコリーナ・カンパニー……許さぬ……」


村人全員、しっかり敵に回った。


「い、逃げろー!!」


「戦国支店、1日で閉店~☆」


「たった一話でクローズって何よ!!」


「もう“ピコリーナ難民”って名乗るしかないのでは?」


リィナがぽそりとつぶやく。


「じゃなーい!!」


こうして一行は、村を救い、村を壊し、村から追われて、西の海を目指して歩き出すのだった。


次回、たぶん海!


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?