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第6話 雨の日の決断

数日後、香織はまだ答えを出せずにいた

俊介とも修二とも会わず、1人で考える時間を作っていた


そんな時、意外な人物から連絡があった。高校時代の親友、千秋だった


「香織?久しぶり!帰ってきてるって聞いたから」


カフェで再会した千秋は、2児の母になっていた


「大変でしょう?」


「まあね。でも幸せよ」


千秋の笑顔は、充実した生活を物語っていた


「それより、香織の方が大変そう」


「どうして?」


「噂になってるわよ~~俊介君と修二君の間で揺れてるって」


香織は苦笑した・・・本当に狭い街だ


「どう思う?」


「私の意見を聞きたいの?」


「ええ。客観的な意見が欲しい」


千秋はコーヒーを一口飲んで、考え込んだ


「高校時代、香織と俊介君は理想のカップルだった、でも・・・」


「でも?」


「理想と現実は違うでしょう?」


千秋の言葉は現実的だった。


「修二君は、ずっと香織を見てた・・・それは私たちも知ってた、彼の想いは本物よ」


「じゃあ、修二君を選ぶべき?」


「それは香織が決めること」


千秋は香織の手を握った


「ただ、一つ言えるのは、過去は美化されやすいってこと」


千秋が帰った後、香織は1人で考えた。そして、ある決断を下した


翌日、香織はまず俊介に会った

場所は、高校時代によく二人で過ごした河川敷


空は曇っていて、今にも雨が降り出しそうだった

梅雨の季節は、別れの季節でもある


「香織、来てくれたんだ」


俊介は緊張した面持ちで待っていた


「話があるの」


「俺も」


「先に聞いて」


香織は深呼吸をした


「俊介君、私たちは素敵な思い出を持ってる、初恋で、たくさんの初めてを一緒に経験した」


「ああ」


「でも・・・」


香織が言いかけた時、雨が降り始めた・・・最初は小降りだったが、すぐに激しくなった


「こっちへ」


俊介は香織の手を引いて、橋の下へ避難した

雨音が激しくなる中、2人は向かい合った

びしょ濡れになった香織の髪から、雫が滴り落ちていた


「香織、答えを聞く前に一つだけ」


俊介は香織を抱きしめた。濡れた服越しに、お互いの体温が伝わってきた。


「愛してる・・・今も、これからも」


「俊介君・・・」


香織も俊介を抱きしめ返した

この腕の中は、かつて世界で一番安心できる場所だった

今も、その感覚は残っている


「私も・・・あなたを愛してる」


俊介の腕に力が入った


「じゃあ・・・」


「でも」


香織は顔を上げた。雨に濡れた顔は、涙も混じっていた


「私たちはもう高校生じゃない・・・過去は美しいままでいい」


「どういう意味だ?」


「私たちは一度別れた、それには理由があった、お互いの夢を優先した」


香織は俊介から離れた


「今また一緒になっても、同じことの繰り返しかもしれない」


「そんなことはない!!!俺は変わった」


「本当に?じゃあ、東京の仕事を捨てて、この街に住める?」


俊介は答えられなかった


「ほら、やっぱり」


香織は寂しく微笑んだ


「私も東京には戻りたくない。少なくとも今は」


「じゃあ、俺が通う、遠距離でも・・・」


「それで上手くいかなかったんでしょう?」


2人の間に、重い沈黙が流れた・・・雨音だけが響いている


「私、前に進みたいの」


香織は決意を込めて言った


「過去に囚われず、新しい人生を歩みたい」


「それは・・・修二を選ぶということか?」


「ううん」


香織は首を横に振った


「誰も選ばない」


「え?」


「今は、自分自身を選びたい!!まず自分を立て直したい!!!一人で生きていける自分になりたい!!!!」


俊介は驚いた表情を見せたが、やがて理解したような顔になった


「そうか・・・」


「ごめんなさい」


「謝ることはない」


俊介は優しく微笑んだ


「君らしい選択だ」


雨が小降りになってきた・・・二人は橋の下から出た


「香織」


「なに?」


「幸せになれよ」


「俊介君も」


2人は最後に抱き合った・・・そして、それぞれの方向へ歩き始めた


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