家に帰ると、母親がリビングで待っていた
「遅かったわね」
「ごめん・・・つい飲み過ぎて」
香織はソファに座り込んだ
「何かあった?」
母親の優しい問いかけに、香織は堰を切ったように話し始めた
俊介との再会、修二の告白、そして今夜の出来事
母親は黙って聞いていた
「どうしたらいいか分からない」
香織は頭を抱えた
「俊介君も修二君も良い人、でも・・・」
「でも?」
「怖いの・・・また失敗するのが」
母親はお茶を入れて、香織の隣に座った
「香織、恋愛に正解なんてないのよ」
「でも・・・」
「あなたはどうしたいの?本当の気持ちは?」
香織は考えた
俊介への想いは確かにある
初恋の人で、今でも心を揺さぶる存在
でも、一度別れた相手
修二は優しくて、誠実で、自分を大切にしてくれる・・・でも、それは愛なのか?
「分からない・・・」
「じゃあ、こう考えてみて」
母親は香織の手を握った
「もし明日、世界が終わるとしたら、誰と一緒にいたい?」
香織は答えられなかった。
「急いで答えを出す必要はないわ、でも、後悔しない選択をしなさい」
母親は立ち上がった
「それと、香織」
「なに?」
「誰も選ばないという選択肢もあるのよ」
母親の言葉は、香織の心に深く刺さった
その夜、香織は眠れなかった
天井を見つめながら、これまでの人生を振り返った
高校時代、俊介と出会った時のこと
図書館で偶然隣り合わせになり、同じ本を取ろうとして手が触れた
あの時の電気が走るような感覚は、今でも覚えている
デートを重ね、海辺でキスをして、永遠の愛を誓った
大学は離れ離れになるけど、きっと乗り越えられると信じていた
でも、現実は違った・・・
遠距離恋愛は思った以上に辛く、お互いに新しい生活に追われて、連絡も減っていった
そして、自然消滅のように別れた
その後、東京で出会った元夫・・・安定していて、優しくて、結婚相手として申し分なかった。でも、情熱はなかった・・・そして結局・・・
香織は寝返りを打った
修二のことも考えた・・・高校時代、いつも自分を見守ってくれていた
グループで遊ぶ時も、さりげなく隣にいてくれた
今思えば、あれは好意のサインだったのかもしれない
でも、当時の自分は俊介しか見えていなかった
修二の気持ちに気づいていたとしても、応えることはできなかっただろう
そして今、35歳になって、また同じ状況に置かれている
携帯が振動した。メッセージが2通。
俊介から:『今日は強引だった。ごめん。でも、気持ちは本当だ。ゆっくり考えてくれ』
修二から:『今夜は飲み過ぎた。でも、本心だ。香織の答えを待ってる』
香織は携帯を置いて、目を閉じた