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終話 2年後

東京での生活は順調だった


香織は小さな出版社で編集の仕事をしていた

給料は前職より少ないが、やりがいがあった


1人暮らしのアパートも、小さいながら居心地が良い

週末には習い事をしたり、友人と出かけたりして、充実した日々を送っていた


ある日、仕事で地方創生に関する本の企画を任された

取材で訪れたのは、偶然にも故郷の街だった


「お久しぶりです」


市役所で出迎えてくれたのは、修二だった


「修二君、市役所に?」


「ああ、転職したんだ、街づくりに関わりたくて」


修二は生き生きとしていた

そして、薬指には指輪が光っていた


「結婚したの?」


「うん、去年。相手は市役所の同僚」


「おめでとう」


香織は心から祝福した


「香織は?」


「相変わらず1人よ。でも、楽しくやってる」


取材を終えて、香織は海へ向かった

夕暮れの海は、相変わらず美しかった


「久しぶりだな」


振り返ると、俊介が立っていた


「俊介君・・・」


「修二から聞いた、仕事で来てるって」


俊介も変わっていた。以前より穏やかな表情をしている


「元気そうで良かった」


「俊介君も」


2人は並んで海を見た・・・でも、もう昔のような感情の揺れはなかった


「実は、俺も婚約したんだ」


「そう、おめでとう」


「相手は仕事仲間、価値観が合って」


「良かった」


香織は微笑んだ


「香織は?」


「まだよ、でも、焦ってない」


「そうか」


2人は静かに夕日を見つめた


「なあ、香織」


「なに?」


「あの時の選択、正解だったな」


「そうね」


「お互い、成長できた」


香織は頷いた。あの雨の日の決断は、正しかった


「じゃあ、そろそろ」


俊介が立ち上がった


「うん」


「また会えるかな?」


「きっとね。この街で」


2人は笑い合い、そして別れた


もう未練はない


ただ、美しい思い出と、相手の幸せを願う気持ちだけがある


香織は一人で浜辺を歩いた・・・波の音が心地よい


人生は続く・・・これからも色々なことがあるだろう


新しい出会いもあるかもしれない

でも、今は一人の時間を大切にしたい


夕日が水平線に沈んでいく。香織は深呼吸をして、帰路についた


明日も、新しい一日が始まる


<完>

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