昼休みのざわつく教室内、ひとつの男女の集まるグループでスマホ画面に集中していた。
「ねぇ、これ見てどう思うよ?」
中島 颯真は、素知らぬように男女のグループの中に紛れていた。本来の性格は陰キャラである。それを隠して、陽キャラを演じてコウモリの紫苑に命じられるミッションがばれないように裏と表の姿を作っていた。自然にするのも最初は辛かったが、生活に慣れ始めている。ここにいる自分は全くの違う人。俳優より俳優のような演技だ。
スマホ画面に映っていたのは、今ニュースで話題になっている『頂きモモちゃん』と名乗っているライブ配信者だ。中年男性からネコナデ声で高額なお金をむしり取り、詐欺師だと容疑がかかっていた。裁判では、有罪で8年の懲役と判決が下された。彼女に投資した中年男性の中には、財産をすべて明け渡し、何のメリットもないと返金を要求しても戻ってこなかったショックで自殺まで追い込んだ。
孫に残そうとした教育費だったそうだ。SNSのコメントでは、必要なお金ならなぜその子に渡すんだと疑問が浮かぶ。他には、本音は孫に心が救われなかったんだろうと冷静な判断をするコメントもあった。
「すごいよね。他人から平気な顔して200万もらうって……ありえない」
「本当。善人ふりして詐欺師だよ。
(……ドキドキするわ)
中島 颯真は、女子たちの会話に聞き耳を立てて、お弁当のウィンナーを頬張った。裏表の発言に自分のことを言われてるようで心臓が早くなる。そんな時、後ろから馬場 悠太に背中をバシッとたたかれた。
「なぁ、中島。今日、助っ人として部活入れないか? お前、中学の時、野球部だったんだろ?」
「え、あー。うん。そうだけど、足けがしたから高校ではやめてたんだよね。なんで、助っ人? 補欠ならいいけど」
「おいおいおい、ふざけるんじゃないよ。補欠で助っ人って意味がねぇだろ。ピッチャーに決まってるだろうが。お前の腕を必要としてるんだって」
まるで昭和に流行ったガキ大将みたいな体格の馬場 悠太がつかむ腕がすごく痛い。これを断ったら、どうなることやら。冷や汗をかきながら、ノーと言えずに頷いた。
「マジか! よし、じゃぁ。今日の放課後と、来週の日曜日の試合にもよろしくな。ピッチャーやってた
またバシバシと左肩をたたかれる中島 颯真は、難しい顔をしてゆがませた。
「ちょ、待って。日曜日は無理だ。練習に入ることはできるけど、用事あるから」
「何の用事だよ。お前、帰宅部でダラダラ過ごしてるんだろ、どーせ」
「いやいや、バイト。駅前のカフェでバイトだって……」
「は? そんなのその日くらい休めって」
「んな、勝手な話だなぁ……」
隣の席に座っていた
「まぁまぁまぁ、それ、俺がやってもいいよ。キャッチャーだったけど」
「え? マジか。んじゃ、お前に頼むかな。って、キャッチャーは求めてないけどなぁ……って、あれ。 颯真どこに行った?」
中島 颯真は、馬場 悠太から逃げるようにお弁当をそのまますり抜けて行った。屋上に向かう階段に上る途中、コウモリの紫苑が黒く丸い異次元空間から現れた。
「おうおう。ちゃんと、お仕事のこと、覚えてたんだな」
「……全くよぉ。バイトも本当はあるっていうのにな」
肩に乗った紫苑を連れて、屋上の扉を開けた。頬に強く風が打つ。
「危ない、危ない。飛ばされる」
紫苑は、慌てて、緑のフェンスの淵に飛び立った。
「ミッションってさっきのことだろ? ライブ配信の女……」
「どんなに法で裁いても許されないこともあるからな。あの女の頭の中は出所してもまたやるって思ってるらしいわ」
「……ん? その女ってもう刑務所に入ってるんじゃ……」
「時間移動して未来に行くに決まってるだろ……8年後」
「ま、マジか。それすんの。戻ってきた時の体重変化が半端ないからあまりやりたくないんだよなぁ」
「宇宙飛行士と同じ感覚な……」
「まだ許可おりてないんだろ? 日曜日の朝だよな」
「閻魔様が厳しくてうるさいからな。まぁ、待っておけ。野球で筋肉鍛えておくんだな」
「うっせーよ」
紫苑は、バサバサと翼を広げて、青い異次元空間に戻っていった。中島 颯真はため息をついて、制服のポケットに両手を入れた。屋上の重い扉を開けようとすると前にクラスメイトの
「げっ……」
小さな声で漏らす。まさか見られてほしくないクラスメイトと鉢合わせするとはと中島 颯真は顔を手で隠して残念がった。