繁華街の路地裏で、小麦色の肌の外国人が周囲を確認しながら、2人が金銭のやり取りをしていた。
「これで、良かったんだよな」
片言の日本語で話すのは黒髪の短髪、顎に無精ひげをはやしたロタールだった。
「ああ。その通りだ。指示された通りにやったんだろ?」
もう一人の外国人であるアンスガルは、日本語がうまく肌が真っ白で金髪だった。
「もちろんだ。この報酬をもらうためにしたんだ。当たり前だろ」
手に握りしめていたのは茶封筒に入った100万円の現金だった。ロタールは、封筒の上の方で札束をチラリと取り出し、数え始めた。
「ちゃんと約束通りの金額入ってるって」
アンスガルは、壁に足をつけてよりかかった。疑り深いロタールの目がギラギラしていた。こんなに多くの現金は見た事がなかったためだ。
「まさか、お店の味噌汁にゲジゲジを入れるだけで、100万をくれるなんて聞いたことないからな。良い仕事見つけてくれてありがとうな」
「……日本に来たばかりだもんな。これくらいあれば、まともな生活が始められるだろ。今まで炊き出しだったもんな」
「……ああ。涙が出るよ」
アンスガルが肩を撫でて、慰めた。昼間であるはずなのに暗い路地裏でぼんやりと光る街灯の下で話す2人の元に後ろからカツカツと靴の音が響いた。誰かが近づいていることに気づかなかった2人は、ハッと気配を感じた。
「犯人はお前たちか……」
腕を組んで、近づくのは真っ黒な服で身を包んで、大きめの黒マスクに黒帽子をつけた颯真だった。肩にはコウモリの紫苑が乗っていた。
「な?!」
「Who are you? Don't come near me」
見ず知らずの真っ黒い姿の颯真を見て、後ずさりする2人だ。思わず、日本語ではなく英語が出てしまう。
「へー、さっきまで流暢な日本語使っていたのにねぇ」
「……チッ」
「逃げるぞ」
颯真はヤンキー座りをして、顎を触りながら、2人を睨んだ。逃げようとする2人の前に軽やかに2mほどジャンプして立ちはばかった。
「くっ……」
「こんな近くにいて逃げられると思っているの?」
「……何者だ」
「うーん、名乗ることでもないのよ」
「は?!」
コウモリの紫苑は、バサバサと颯真の頭の上をクルクルと回ると、黒い羽根から銀色の粉をまき散らした。近くにいた外国人の2人も透明な姿になり、消えていく。路地裏を通り過ぎるサラリーマンや犬の散歩中のおばさんもそこに誰かいたことなど気づいてなかった。リードを繋がれた小型犬だけは、変なにおいを察知する。
透明のまま、サバイバルナイフを振り回し、2人の命を一瞬にして奪った。誰にもわからずにして、外国から送り込まれたスパイを抹殺した。紫苑の力により、外国人2人の体は別な空間に飛ばされた。2人の消息は行方不明として届けられた。
悪さをして稼いだとされる100万円の入った茶封筒は、地面に落ちていた。颯真は、そっと実体化して拾った。
「このまま、持って帰れればいいだろうけど……だめだ、だめだ。俺まで罪人になってしまう」
「ハハハ……お前はすでに罪人だろ」
「心外だ。俺は合法だよ」
「さーてね」
仕事を終えた紫苑は、星が輝く夜空に飛び立っていった。
颯真は、複雑な顔をしてカツカツと靴を鳴らして家路を急いだ。
街では車のクラクションが鳴り響いてる。酔っ払ったサラリーマンが行き交っていた。
翌朝、颯真は近所の老人福祉施設に匿名で100万円をインターネット振り込みで寄付した。素性はバレることはなかった。