風が吹きすさぶ高校の屋上でコウモリの紫苑は、バサバサと翼を広げて、青い異次元空間に戻っていった。中島 颯真はため息をついて、制服のポケットに両手を入れた。屋上の重い扉を開けようとすると、目の前にクラスメイトの
「げっ……」
小さな声で漏らす。まさか見られてほしくないクラスメイトと鉢合わせするとはと中島 颯真は顔を手で隠して残念がった。
「なんで、いるんだよ」
「いやいやいやいや……こっちのセリフ。1人で上にあがって行ったから何しに行くんだろうと思ってさ。誰と会話してんのよ。気持ち悪いよ」
ほっと安心した。
「あ、うん。そう。俺さ、独り言多いのよ。知らなかった? ハハハ」
「はぁ? あんたの独り言なんて聞いたことないわ。周りにたくさんの人を取り巻
いて、どこで独り言いうのよ。トイレにまでついてくじゃん。あんたの取り巻き」
「……よく俺のこと見てんだな」
「え。あ。う? うん……そりゃぁね、クラスで人気者のことくらいは知ってるわよ」
「へー、そう。俺って、人気者なん?」
中島 颯真は、
「ちょ、ちょっと。それは反則だわ。いくら、イケメンで人気者だからって私を口説くなんて百万年早いっつぅーの」
「……な?! 俺は口説いてないっつーの。勘違いだ!!」
顔を近づけて、キスでもされるのかと勘違いした藤原 朱だ。チャイムが響く。昼休みが終わる予鈴だ。
「あ、次。化学の石崎だ。急がないと叱られる!!」
「ば、バカ。それを早く言えって」
2人は、移動教室の化学だということを思い出し、階段をかけおりた。この瞬間から、中島 颯真は藤原 朱からマークされることとなる。警戒心が強くなるが、藤原 朱にとってはただの恋心だったりするのかもしれない。
教室に着いて、距離が離れても鼓動が強く打ち鳴らすのがわかった。さっきのは何だったんだろうと心中穏やかではない藤原 朱だ。
「おい! 颯真。どこ行ってたんだよ。俺から逃げようとしてただろ」
「違うって、ただトイレ行ってただけだ」
「なら、いいんだけどよ。ほら、化学室いくぞ」
馬場 悠太は、体格がいいわりに小心者で無理やり野球を連れていくと言ったから嫌われたんじゃないかと気にしていた。 颯真は、案外かわいいところあるんだなとクスッと微笑んだ。
――――マグマが湧き出す火山の近くでは、閻魔大王の王座があった。大きな柱が何本も立ち並ぶ。翼を広げた鬼たちが閻魔大王の食事を運んでいた。
「閻魔様、ご注文のローストビーフです」
「そこに置いておけ」
「ビーフシチューもございます」
「次々、運んで来い。わしは腹が減っているのだ。次々と来る者たちを相手しなくてはいけないのだから」
食事に夢中になる閻魔大王のそばに飛び立ってきたのは、下界から飛んできた颯真のお供のコウモリの紫苑だ。
「閻魔様! 閻魔様」
「何用だ。紫苑!! 今、わしは食事中だぞ」
「そんなの見ればわかりますよ。紫苑の目は節穴ではございません!」
「戯言はいい。ささっと申せ」
「はい! 下界の中島 颯真にミッションを与えろと申しつかっておりましたが、今度のミッションについてどのように罪人を裁けばよいかの確認でした」
「ああ? 次のミッションは詐欺師だろ」
閻魔大王は次々に食べものを放り込み、王座の隣に置いていた罪人リストを確認する。
「詐欺師であることは間違いありません。殺人ではなく、被害者を自殺に追い込んだ間接的の罪です。それも処罰しなければならないのでしょうか?」
「うーむ。自殺というのは個人の心の問題だが、原因の一つではある。処刑しなくてもよいが、霊体だけこちらに送ってもらおうか。とことん、しごいてやる」
「れ、霊体だけですか。中島 颯真にその技術はまだないような気がしますが……い
かがいたしましょう」
「瀕死状態にするだけだ。こちらの指導が終わったら、すぐ戻してやる」
「ひ、瀕死状態? 難易度が高いですよ。中島 颯真は、今まで処刑しかしたことがないです。顔バレの心配ありませんか?」
「……確かに。まぁ、あいつの演技力は半端ないから大丈夫だろ。おい! 牛肉もっと持ってこーい」
「「御意!!」」
緑鬼や青鬼は、閻魔大王の一声で慌てて骨つき牛肉をたくさん運び出した。大きな銅鑼の音が鳴った。午後の仕事が始まった。
「閻魔大王! 罪人が来ます。お早くお願いします」
「うっさいなぁ。この肉食べたら、仕事する!! 少し、待ってろ」
子供のような対応に鬼たちや行列の罪人たちはたじたじになる。コウモリの紫苑は納得ができなかったが、とりあえずは閻魔大王の言う通りにしようと下界の丸い異次元空間を出して、飛び立った。
また銅鑼の大きな音がお城中に響いた。