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第7話 謎の未解決事件捜査

 閑散とした警察署の会議室の出入り口では、『未解決殺人事件会議』と筆文字で書かれていた。署長と副署長が丁寧にセロハンテープで貼っていたが、颯爽と歩く捜査一課の課長を引き連れた者たちがずんずんと中へ入ろうとする。外ではないのに、勢いよく風が吹いて、せっかく貼った張り紙が剥がれている。


「おいおいおい。そんな張り紙いらない。警察の恥をさらすつもりか!」

「へ? あ、大変申し訳ございませぇん。すぐにはがします~。ね、村上くん」

「え、署長。徹夜して何度も書いた筆文字を外すんですか。一課の皆さんに見せるためっておっしゃってたじゃないですか」


 署長補佐の木村が肩を撫でて言うが、涙を流す村上署長は署長室へ逃げていく。よほど悔しかったようだ。


「村上くん。もういいんだ。私の役目は終わったのよ」


 涙しながら、うなだれて歩いていく村上署長の後ろを慌てて着いていく木村と副署長の坂本だった。


 会議室では着々とパソコンやホワイトボード、マイクなどの準備がすすめられていた。所轄の刑事も次々と中へ入っていく。不定期に開催される未解決事件会議。頻繁に起きる証拠が見つからない未解決の殺人事件が謎に満ち溢れていた。ホワイトボードには殺人現場の写真がたくさん飾られていた。どれも凶器や血痕が残されていない。殺された遺体もない。被害者の衣服だけだった。不思議な事件ばかりだ。遺族に連絡を取っても被害者はどこにもいないということで行方不明ではなく殺人として処理されたものもある。壁に備え付けられた大きなテレビ画面には、コンビニや街中の監視カメラ映像が映し出された。


「時間短縮のため、自己紹介は割愛させていただきます」


 警視庁捜査一課長の平井 敬子ひらい けいこは、黒のパンツタイプスーツにポニーテールを揺らし胸元についている名札を見せながら、長テーブルの上のマイクに向かって話す。まつ毛についたマスカラが気になって、整えた。


「サクサク行きます。まずはこの事件から会議を始めていきましょう。日時は、2025年3月XX日 午後10時。被害者は国会議員の岡本檀次郎おかもと だんじろう。懐石料理屋 あじさいの『藤の間』にて食事中に事件発生。死亡原因は、ご自身の爪につけていたジェルネイルが原因じゃないかとされたのですが、司法解剖の結果、何者かに刃物で首を刺されたものだと結論が出ました。問題なのは、どこにも凶器は見つからなかったという点と、犯人とされる目撃情報もなく、側近である方もトイレに行っていたということで不審点が数多くある事件ですね……何か新たに情報が見つかりましたら、挙手をお願いします」


 所轄刑事の高田 史騎たかだ ふみのりは、無精ひげをじょりじょりと手で触りながら、警察手帳を片手に立ち上がった。手を挙げていないまま、話し出す。


「当日の被害者の動向から、裏金事件が絡んでいた会食だったらしく、動機は被害者の罪を犯人は裁こうとしていたのはないかと思います。それに……」


「高田くん!! 高田、おい! 高田。見て見ろ」


 隣にいたバディの阿部 義昭あべ よしあきは、一課長の平井 敬子を影から指を差した。鬼のような形相になっていた。


「挙手をして、話せという声は聞こえないのかしら。誰なの。指導者は?!」

「た、大変失礼いたしました!!」

 横にいた阿部 義昭は、高田 史騎の代わりにぺこぺこと頭を下げて謝った。隣で高田 史騎は舌打ちをして、ふてくされる。阿部 義昭は左手の平で高田 史騎の頭を下に向けさせた。


「じじい! 何すんだ」

「いいから。ここは頭さげろ」

「……どうもすいませんでした」

 小さいながらも、頭をしっかり下げて謝る高田 史騎だった。


「あ、そう。んじゃ、続けてちょうだい」

 平井 敬子は仕切り直しでさっきの態度を許したが、反応がないことにもっとイラっとした。


「……?? え、あ。俺っすか」

「お前のことだ!!」


 また頭をはたかれる高田 史騎だ。改めて、ピシッと右手を小学1年生のようにあげた。


「もういいから。話しなさい!!」


 諦め半分の平井 敬子は、ため息をついた。周りの刑事たちも呆れかえっていた。態度はぐだぐだだったが、犯人の見立てや被害者の行動をしっかり見れる高田 史騎の捜査の内容をじっくりと聞く刑事たちだった。だんだんになぜ、被害者が殺されたか謎が少しずつだが、暴かれていくが、犯人の手がかりになるものは一切残されていなかった。


 頭を悩ませる刑事たちだった。


「犯人絶対捕まえましょう。俺なら絶対つかまえられますよ」

「お前が?」

「ええ、そう。この千里眼で」

「「「「どこかがだよ!?」」」」


 同僚のみんなにそうツッコミされる高田 史騎は、右往左往する。


「ちょ、信用ないっすね。みんな俺の何を知ってるんですか」

「わかるっつーの」


 平井 敬子も両手をあげて、呆れてしまう始末だ。とにもかくにも、事件解決には時間が相当かかりそうだ。


 警察署の中庭では、枝にとまっていたカラスが鳴きながら、夕空へと飛び立っていった。

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