「初見さん、いらっしゃい。お名前、なんていうのかな。www
ライブ配信を始めて早くも半年。通信教育で習ったタロット占いを駆使して、荒稼ぎしていたのはユーザー名『
『はじめまして。夢見さん。人生相談希望です』
「人生相談ね。了解しました。ただ、相談って言ってもあくまで占いだから。的確なアドバイスじゃないかもしれないけど、ごめんね―――」
占いは目には見えないもの。どんどん質問してその質問に合わせた答えを何通りか用意して、その場しのぎに視聴者を安心させていた。本当は霊視なんて、霊感もなければ、占いそのものの資格さえも持っていない。人は、すぐに騙されるんだと心理学を使って金儲けしていた。本当はこれぽっちも人助けしたいなんて思っていない。とにかく明日生きていくためのお金が欲しいがために人に合わせた会話を重ねているだけだった。
「―――以上です。あなたの心に寄り添えたらいいなと思ってます。ぜひ、またいらしてくださいね」
『夢見さん。聞いていただきありがとうございました。すっきりしました』
「すっきりしましたか? それは良かった。ゆっくり休んでくださいね。良い夢を~」
スマホ画面に両手を振って別れを告げた。テーブルに並べたタロットカードを綺麗にそろえた。また次から次へとご新規の視聴者が増えていく。だんだん、疲れが見え隠れする。思わず、ため息をついた素顔を見せてしまった。
『お疲れですか? 大丈夫ですか?』
常連の視聴者さんから心配されるほどだった。
「あ、すいません。ついつい、素が出てしまいましたね。大丈夫です、次の方、どうぞ」
『……おい!』
突然、挨拶もなしに入ってきたご新規の視聴者がコメント記入をした。
「あ、こんばんは。はじめましてですね。占いご希望でしょうか?」
『お前、俺の母親を騙したな?』
「playerさん、どうされました?」
夢見響子は動揺を隠せない。額に尋常じゃないくらいの汗が飛び出る。自分がやっていることは分かっていたはずだ。
『しらばっくれるつもりか?』
「playerさん、一体なんのことを言ってるのでしょうか?」
『お前なんだろ。俺の母親に高額なブレスレットや浄化スプレーなんかを送りつけてきたのは!?』
「はぁ、確かに、私のHPからブレスレットやスプレーを購入することはできますが、強制力はありません。どなたか存じ上げませんが、お引き取り願いませんか?」
『占いだか、宗教だか、知らないが、俺の母親を騙すのやめてくれないか。家に1本2万もするブレスレットが10本も届いたんだぞ! しかも俺のクレジットカード番号で!』
playerと名乗るその人は、リアルの母親がブレスレットの大量購入していたようだ。名義は何故か知らないか息子名義のカードを使用とのことだ。夢見響子は、どう対応すればいいか分からなくなる。
「そんなに購入なさったんですね。それはありがとうございます!!」
ついついグッズ販売で収入を得ている夢見響子にとって物品購入は神様のような存在だ。だが、お礼を言う相手を間違っている。
『ふざけるんじゃねぇ!! こっちはその請求で明日も生きられるかどうかの瀬戸際だ! 低収入の家庭から金巻き上げるんじゃねぇよ。母親は少ない年金生活なんだぞ。もっと考えてモノを売れって言ってるんだ!』
「……それは! ライトワーカーと言われている私たち占い師にとってとても残酷なことですね。返金対応をさせていただきますね。購入されたブレスレットを郵送で返送していただけませんか?」
『郵送だ?! 郵送代も請求するってことか。なんて、残酷なやつだな。不快だ。とっても不快だ』
playerは、通報ボタンを何度も押して、運営側に訴えた。どんどん夢見響子の評価は下がっていく。それを下がる数字を見て、夢見響子は、豹変した。
「ずっと聞いてれば、ふざけるんじゃないわよ! 私の枠を荒らしていくんじゃないわよ!!」
鬼のような怖い顔でスマホ画面に訴える。さっきまでずっと聞いていた10人ほどの視聴者は一瞬にして消えていった。残ったのは、何故かクレームを出したplayerだけだった。
『本性を現したな?!』
「もう消えて!? あんたなんか占う価値もないわ」
playerがコメントどんどん書いていく。『悪徳詐欺師』という言葉が何度もコメントされた。
「あ、あ、あ……なんてことを!!」
『二度と来るか!』
その一言でライブ配信の視聴者はすべていなくなった。
がっくりと肩を落とした夢見響子の後ろに颯真とコウモリの紫苑が佇んでいた。頭にぐるぐる巻きに巻いた包帯でミイラにも見えなくもない。
「俺らが来るまでにお仕置きをしてくれた人がいたんだな」
「今回は楽にこなせそうだな、颯真!」
「な、なんなの。あんたたち。気持ち悪い!!」
「あんたは気づいてないみたいだな……相当数の被害者がいることを」
「はぁ?」
初めて会う颯真に戸惑いを感じて、夢見響子は何を言われているのか理解ができなかった。
床にぺたんと座っている彼女の額に指を近づけた。