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第25話:鉄の乗客

 山口 まどか(やまぐち まどか:仮名)さんという30代前半の女性から聞いた話。


 会社から帰宅中の電車内で体験したエピソード。


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 夜23時ごろ。山口さんが使う某路線はこの時間、乗客は少なく車両によっては5〜6人しか乗っていないこともある。


 この日もガラガラで、山口さんは車両の一番隅の座席に座り、スマートフォンでTwitterを眺めていた。


 とある駅にたどり着いた時、山口さんの鼻を妙な匂いが刺した。強い鉄の匂いがするのである。電車には鉄製のものが多くあるが、普段こんなにも気になることはない。


 匂いの原因を確かめようと、スマートフォンの画面から顔を上げると、向かいの席に男が座っているのが見えた。


 白いパーカーに灰色のズボン。黒いサンダルを履いている。少しチャラそうだが、どこにでもいそうな人だ。そう思ったのは束の間、山口さんは男の異様な点に気づいた。


 白いパーカーのところどころに血が飛び散っているのである。部分的に真っ赤になっているところもあり、白と赤の比率は6:4くらいだった。


 よく見ると、ズボンも濃い灰色になっている部分があり、そこにも血が染み込んでいると思われる。


鉄の匂いもこの男の方からしていた。これは血の匂いだ。匂いが向かいの席まで届いているということは、男についている血は新しいものである可能性が高い。


 山口さんはいろいろと想像してしまい、怖くなった。人を殺してきた?死体を処分してきた?いずれにせよ普通の状態でないのは確かだ。


 男は血まみれの手でスマートフォンを操作し、周りの目など気にしていない様子。3駅ほど乗り、電車を降りていった。


 警察か駅員に伝えるべきか迷った山口さんだったが、あの姿で歩いていればそのうち誰かが通報するだろうと思い、深く関わらないようにした、と語ってくれた。

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