紗南美が帰宅すると、部屋には血みどろの服が置いてあった。
「ええっ!」
驚くと同時に自分が見た夢が思い出される。
そして百音と宗の遺体にあった、食いつかれた跡と抜き取られた心臓。
「あれは…… もしかして私がやったの?」
「お前の体を使って私たちがやった」
内から語りかけられる。
「ブラックゴート…… 私たちって?」
「大勢だ。おまえは独りじゃない」
独りではないという言葉が紗南美には、これまでの自分を労り奮い立たせるものに感じた。
「全然覚えていない」
「惜しかったな。もう少し意識が強ければ、私と一緒に蹂躙する喜びを味わえたのに。だがじきに慣れる」
「そうだね…… あの演出は?」
「ショーは華やかにしたいだろう?ただ死体が見つかるよりもよほどインパクトがあっただろう?」
「そうね…… 最高だった」
二人の死体を見たとき、そしてその後の顛末。
楓たちの顔を思い出すと愉快でたまらなくなった紗南美は頬を綻ばせた。
内なる会話は続く。
「二つの心臓を新たに捧げたおまえのことを、ご主人様がいたくお気に入りになられた」
「ご主人様?」
「私たちのご主人様…… 唯一無二のお方だ」
隆が呼び出した別世界の住人ともいえる存在は紗南美の中にいる。
自分と混ざり合い、全てを共有する間柄の者が「主人」崇める存在がいることに紗南美は驚いた。
「窓を開けて空を見ろ」
言われた通りに窓を開けると、真っ暗な夜空の果てに稲光が見えた。
遠くの空が光っている。
はるか遠くの夜空を見ていた紗南美は、胸の奥から暖かいものがこみ上げてきた。
自然と頬を涙が伝う。
「はい…… うれしいです」
「私に力を…… ありがとうございます」
自分は主人に期待され、愛されていると実感したときに、紗南美の中に無上の喜びと感動が湧き上がった。
喜びに体を震わせ、涙が止めどなく流れる。
「はい…… 捧げます…… もっともっと捧げます」
遠くの空が暗くなった。
自分はもう人でなくなるのかもしれない。
しかし、そのことに抵抗はなかった。
あるのは焼けつくような憧れだった。
自分を虐げてきた者たちを、這いつくばらせて踏みにじる。
それができるなら、どんな悪行も善行になると強く思った。