冷たい風の吹き荒ぶ屋上で、私はただただ震えていた。
寒さだけのせいじゃない。
目の前で風に揺れる赤い髪。その真下に潜む獣のような鋭い目つきが私を捉えていたからだ。
こんな状況、夢であって欲しかった。
「お前か。俺にあんな手紙をよこしたのは」
「い、いえ……あの……」
「声が小せえ。もっと気合いを入れて話せ!」
「は、はいっ!」
うっかり「はい」って言っちゃったけど、私はこの人に手紙を出したりしていない。
うちの高校で最強のヤンキーと噂されるこの人──
彼の髪が赤い理由を知ってますか?
それは、殴った相手の返り血を浴びても目立たないようにするためです。
国語の教科書にそんなことが書いてあったような気がする!
もしもヘビに睨まれたら、カエルは自分の死を覚悟しながらも逃げられず、ゆっくりと飲み込まれるのみ。
生物の教科書にもそう書いてあったような気がする!
とにかく、絶対にこの人と目が合ったらいけないと入学したその日に上級生から教えられた。
怖すぎて、震えるしかない。いや、この恐怖にはもう耐えられそうにない。
どうせ
……いや、やっぱ無理無理。
必死でガリ勉してせっかく憧れていた高校に入学して約6ヶ月……今が一番楽しい時期なのに、ここで死ぬとか絶対に嫌。
そう──私が屋上にやってきたのは、こうして最強伝説のヤンキーと睨み合うためじゃない。
ずっと憧れていた
私は辺りをキョロキョロと見回してみた。
もしかしたら木更先輩が屋上のどこかにいるんじゃないかと淡い期待を込めて。でも、何度首を動かしてもここにいるのは赤い髪のこの人だけ。
もしかして、私はやってしまったんでしょうか。
昼休みに慌てて木更先輩の下駄箱に突っ込んできたラブレター。
まさか……その下駄箱、この人の下駄箱だったなんて、奇跡の凡ミスを犯してしまったんでしょうか⁉︎
よりにもよって、この人に愛の告白を⁉︎
「嘘でしょ……」
「嘘?」
「あっ、ち、違いますっ! 今のは、なんでもありませんっ」
私は膝をガクガク震わせながら、こちらを睨みつけてくる野獣に向かってヘラヘラとした笑顔を見せた。
困った時はとりあえず笑顔だ。
愛嬌だけはいいと褒められ、育てられてきた。大抵の揉め事はこの笑顔で解決してきた信頼と実績が
「何笑ってんだ。ふざけてんのか」
はい、一瞬で崩れ去りましたーー!!!
笑顔が、効かない!!!
ほぼ最終兵器だったのに! どうしよう⁉︎
野獣が私を睨んだまま近づいてくる。
終わった。私の人生。このままこの人に乱暴を働かれて仲間のヤンキーにもなんやかんやとオモチャにされてボロ雑巾のように道端に捨てられる運命が待っているんだ。
思い返せば、波瀾万丈の人生だった。
こんな時だけど、ちょっとだけ私の過去を振り返らせてください。