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悪役攻略ミッション、だけど彼の“初恋”本人でした
悪役攻略ミッション、だけど彼の“初恋”本人でした
春野はるの
恋愛現代恋愛
2025年06月05日
公開日
1.9万字
連載中
私は、悪役の若くして亡くなった初恋の妻だった。 死んでから十年——私は、システムによって蘇らされた。 「壊れてしまった彼を救済せよ」──そんな使命を背負って。 けれど、私はすべての記憶を失っていた。 だから、遠くにあの悪役の姿を見つけても、近づくことすらできず、 彼の部下たちに追い払われてしまったの。 みすぼらしい姿で地面に投げ出されたその瞬間、 突然、目の前にまるで動画サイトのような弾幕コメントが流れ始めた。 【またかよ。今度は何人目の「救済担当者」だ?】 【この十年、システムは世界を守るために、何度も何度もあの悪役を攻略しようと、替え玉を送り込んでるんだよな】 【亡き妻に顔が似てる子、性格がそっくりな子、果ては記憶そのものをコピーされた子まで……】 【でも、誰一人として成功してない。】 【こんな平凡そうな子、何日もつかな?】

第1話

システムが私をこの世界に連れてきたとき、

世界線の安定を脅かす“あの悪役”は、すでに三十四歳で、十歳になる息子を抱えていた。


私は長い眠りから目覚め、何も知らず、何も覚えていなかった。

ただ、自分の名前が「結城望(ゆうき のぞみ)」で、年齢が二十三歳だということだけは知っていた。

それも、システムが私に教えてくれたことだった。


それに加えて、システムは“あの悪役”の危険性を、何度も何度も私に言い聞かせた。

過去に送り込まれた攻略者たちのように、

この世界に入った瞬間、命を落とすことのないように、と。


システムによれば、悪役の名は――神谷慎一(かみや しんいち)。

世界の富と権力の頂点に立つ男。

冷酷で陰湿、まるで荒ぶる獣のような存在。

彼にあるとされる唯一の良心は、幼い息子に向けられている、それだけだという。


私は鏡に映る自分をじっと見つめ、しばし考えた。

「私に……あの人が一目置くような、特別な何かなんて……ないと思う」

小さくつぶやいたその声は、鏡の奥へ吸い込まれていくようだった。


そんな私を、システムは黙って見つめていた。

しばらくしてから、意味深にこう言った。

「君が、最後のチャンスだ。もし君でもダメなら――」


言葉を途中で切ったあと、今度ははっきりと、

「……いや、君ならできるはずだ」と、言い切った。

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