しかし、私の頭の中は、真っ白だった。
結城蓮が求めるどんな反応も、私は返せなかった。
彼がじっと見つめる視線は、次第に冷めていった。
エレベーターの方から誰かが慌てて駆け寄ってきた。
スーツ姿の壮年の男性は結城蓮よりずっと背が高いのに、
彼の前で恭しく腰を折り、
切実な口調で言った。「坊っちゃん、車が下で待っております」
「学校に遅れますよ」
結城蓮はそっと黒い睫毛を伏せた。
失望したように。
そして、きびきびと背を向けて立ち去ろうとした。
しかし、振り返ったその動作が、一瞬止まった。
眉間がまた、かすかにひそんだ。
彼は廊下の向かいのガラス窓を見ながら言った。
「傷の手当てをしたほうがいいよ」
私は彼の視線の先にある鏡面に目を向けた。
自分の腕や右足に巻かれた粗末な包帯が見える。
この世界に入った後、システムは私に何のチートも与えてくれなかった。
持っていたわずかなお金では、食費や住居費さえままならず、
病院での治療費など到底払えなかった。
結城蓮はもう去っていた。
私の視線はガラス窓から滑り落ち、
そこに映った、自分自身のぼやけた顔を見つめた。