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第28話​

神谷慎一を怒らせ、彼の報復や罰が下るかと。

しかし、そうはならなかった。

彼は私の耳元にかけたマスクの布地に唇を落とした。


彼の低い声が聞こえた。


「結城望」

彼は言った。

「なぜなら、あの攻略者たちは、ただの攻略者に過ぎないからだ」

「お前は、ただの結城望なんだ」


神谷慎一の吐いた簡潔な言葉に、

私は一瞬、反応できなかった。


目の前の文字たちは、すでに大騒ぎしていた。

びっしりと、白く霞むほどに。


【???】

【マジかよ?散々罵ってた姉さんがまさかの本物の初恋だったとか?】

【え???】

【道理で悪役さん、乗っ取られたみたいな挙動してたわけだ。】

【……つまり、これがシステムの最後の切り札だったんだな。】

【最初、諦めてるみたいって言ってた奴らは?】

【もしかして、彼女は何もしなくても、悪役さんが勝手に寄ってくるってことじゃないの?】

【それに亡くなったはずの初恋…バフが積み重なってる。】

【システムがどんな方法で、こんな大物を復活させたのかわからん。】

【本物と偽物は違うんだな。】

【記憶を失い、顔に傷を負っていても、悪役さんは彼女だと見抜いた。】

【今さら彼女を罵れる奴がいるか?】

【前は優柔不断って罵ってたくせに、今じゃ彼女のことを『初恋特有の優しさ』だの『自分が食べるのもやっとなのに野良犬にまで分け与える』だの。】

【前は無能って言ってたくせに、今じゃ『初恋はこういう穏やかで焦らない性格がふさわしい』だの『目的意識が強すぎる攻略者とは違う』だの。】

【前は散々嘲笑ってたくせに、正体がわかったらみんな土下座かよ?】

【……】


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