神谷慎一を怒らせ、彼の報復や罰が下るかと。
しかし、そうはならなかった。
彼は私の耳元にかけたマスクの布地に唇を落とした。
彼の低い声が聞こえた。
「結城望」
彼は言った。
「なぜなら、あの攻略者たちは、ただの攻略者に過ぎないからだ」
「お前は、ただの結城望なんだ」
神谷慎一の吐いた簡潔な言葉に、
私は一瞬、反応できなかった。
目の前の文字たちは、すでに大騒ぎしていた。
びっしりと、白く霞むほどに。
【???】
【マジかよ?散々罵ってた姉さんがまさかの本物の初恋だったとか?】
【え???】
【道理で悪役さん、乗っ取られたみたいな挙動してたわけだ。】
【……つまり、これがシステムの最後の切り札だったんだな。】
【最初、諦めてるみたいって言ってた奴らは?】
【もしかして、彼女は何もしなくても、悪役さんが勝手に寄ってくるってことじゃないの?】
【それに亡くなったはずの初恋…バフが積み重なってる。】
【システムがどんな方法で、こんな大物を復活させたのかわからん。】
【本物と偽物は違うんだな。】
【記憶を失い、顔に傷を負っていても、悪役さんは彼女だと見抜いた。】
【今さら彼女を罵れる奴がいるか?】
【前は優柔不断って罵ってたくせに、今じゃ彼女のことを『初恋特有の優しさ』だの『自分が食べるのもやっとなのに野良犬にまで分け与える』だの。】
【前は無能って言ってたくせに、今じゃ『初恋はこういう穏やかで焦らない性格がふさわしい』だの『目的意識が強すぎる攻略者とは違う』だの。】
【前は散々嘲笑ってたくせに、正体がわかったらみんな土下座かよ?】
【……】