結城望。
神谷慎一が真剣に私の名前を口にした瞬間、
脳裏に無数の光の破片が走った。
しかし、我に返ってそれを掴もうとしても、何もなかった。
私の頭の中は、相変わらず虚ろなままだった。
ただ、わかった。
私が、結城望なのだと。
私が、神谷慎一のあの早世した妻、結城望なのだと。
そっと顔を上げ、目の前の神谷慎一を見つめた。
「私は…何も覚えていないの」と声を絞り出した。
「わかっている」神谷慎一はうつむき、自分の額を私の額にそっと寄せた。
エレベーターは地下1階に到着し、ドアが自動で開いた。
神谷慎一は私をぐいと抱き上げた。
体が宙に浮き、思わず彼の首に腕を回した。
彼の声を聞いた。「まずは家に帰ろう」