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第30話

私に真実を伝え、

おそらく私が抵抗しなかったのを見て、

神谷慎一はさらに遠慮をしなくなった。


彼は車から降りると、そのまま私を抱えたまま、見知らぬ重厚な高層の邸宅の中へと運び込んだ。


玄関を踏み入れると、室内の灯りが自動で点いた。

正面に目に入ったのは、巨大な肖像画だった。

そこに描かれていたのは、若い女性の顔。


神谷慎一は私の視線を追って、

低く言った。「十年は、長すぎた」

「だから、時間潰しにいくつか習い事をしたんだ」

そう言いながら、彼はその絵を指さした。


階上からかすかに聞こえていたピアノの音が、その時止んだ。

誰かがドアを開けて出てきた。


蓮(かみや れん)だ。

彼は父親と瓜二つだった。

家の中でも、きちんとしたシャツとズボンを着ていた。

二階から、私たちを見下ろすように立っていた。


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