神谷慎一に抱かれたまま、私は一階のリビングに立っていた。
蓮は二階に立っている。
二人の視線が合ったが、どちらも先に口を開こうとはしなかった。
結局、蓮が先に視線をそらした。
彼は振り返り、自分の部屋へ戻っていった。
足音は落ち着いて、はっきりと聞こえた。
彼のドアが閉まるのを待って、神谷慎一が再び口を開いた。
「彼のことは覚えているか?」
私は首を振った。
「彼は、俺たちがかつて引き取った子だ」
「その頃、彼はまだ十歳だった」
「お前がいなくなってから、ずっと俺のそばにいてくれた」
「だから…彼はお前に、敵意を持っている」
私は小声で尋ねた。
「彼は私のことが嫌いなの?」
神谷慎一は私を抱えたまま、階段へと歩き出した。
「彼はお前がなぜ去ったのか、理解できていない」
「そして、なぜお前が戻ってきたのかも、わかっていない」
「彼には時間が必要なんだ」