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第31話

神谷慎一に抱かれたまま、私は一階のリビングに立っていた。

蓮は二階に立っている。

二人の視線が合ったが、どちらも先に口を開こうとはしなかった。

結局、蓮が先に視線をそらした。

彼は振り返り、自分の部屋へ戻っていった。

足音は落ち着いて、はっきりと聞こえた。


彼のドアが閉まるのを待って、神谷慎一が再び口を開いた。

「彼のことは覚えているか?」

私は首を振った。

「彼は、俺たちがかつて引き取った子だ」

「その頃、彼はまだ十歳だった」

「お前がいなくなってから、ずっと俺のそばにいてくれた」

「だから…彼はお前に、敵意を持っている」


私は小声で尋ねた。

「彼は私のことが嫌いなの?」


神谷慎一は私を抱えたまま、階段へと歩き出した。

「彼はお前がなぜ去ったのか、理解できていない」

「そして、なぜお前が戻ってきたのかも、わかっていない」

「彼には時間が必要なんだ」


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