私は神谷慎一の肩を軽く叩き、降ろしてほしいと訴えた。
神谷慎一は聞き入れなかった。
ただ、私を応接間のソファに座らせた。
「彼はもう十歳だ。話はわかる」
神谷慎一はさっと上着を脇に置いた。
「俺はとっくに、全てを彼に話している」
言葉を交わしただけで、蓮は階下に降りてきていた。
彼は私の前に立ち、一歩の距離を置いて私を見つめた。
私たちは互いに沈黙した。
彼が私の息子だという事実を、どう受け止めればいいのかわからなかった。
結局、蓮が先に口を開いた。
「パパが言ってた。家が火事になって、誰かが僕がまだ火の中にいるってママを騙したんだって」
蓮の言葉はそこで止まった。
彼の口調は平静で、言葉は明瞭だった。
しかし、そう言い終えると、彼の黒い瞳に涙が溢れ出した。
今度は、蓮の涙を見つめながら、彼の言葉を聞いて。
私はまるで十年前の燃え盛る火災現場に引き戻されたかのようだった。
かすかに、何かを思い出し始めていた。
あの頃の蓮は、まだおくるみに包まれていた。
神谷慎一はどうやら家にいなかった。
私は火の中へ駆け込み、彼を探した。私の子供を探したのだ。
炎と煙が目を開けていられないほどに焼けつく。
それでも私は迷わず二階へ向かった。
焼け落ちた梁が私の背中に落ちてきた。
炎が私の髪や顔を舐めた。
――私はあの火災から、二度と出てこられなかった。