その日も、私は夢の中を彷徨っていた。
あの懐かしい匂いがまた漂ってくる。
男の人が、私のベッドの傍に座っていた。
どうやらお酒を飲んでいるみたい。
話すたびに、ふわりと優しいアルコールの香りがした。彼はいつもよりずっと多くのことを語ってくれた。
「鳴……君はきっと、俺を恨んでるよね?」
「君が俺を好きだった時、僕はそれを避けようとした。」
「君が苦しんでいた時、僕は知らないふりをした。」
「いつも冷たく接して、うざいとか、好きじゃないって……言った。」
「君は言ったよね。俺が君を好きじゃなくても、嫌いじゃなければそれでいいって。」
「その言葉を、涙をこらえて言った君を見て……俺も同じくらい、胸が締めつけられた。」
「でもね、鳴……君は間違ってる。」
「僕は君が好きだ。最初に出会ったあの夜から、ずっと。」
「隅田川の堤防で会った夜、君の目には、生きたいという気力すら薄れていた。」
「それでも君は笑って言った。『これが初めて、自分のために過ごす誕生日なんだ』って。」
「小さなケーキに涙が落ちて、それでも一番綺麗な、真ん中のチェリーの乗ったケーキを僕に差し出してくれた。」
「君の瞳があまりにも澄んでいて、俺は泣きそうになった。」
「母が亡くなってから、そんな風に、何の見返りもなく、いちばん大切なものをくれた人なんていなかった。」
「君を背負って帰る道中、君は好きなドラマの話や、助けた子猫の話を一生懸命してくれた。僕は知らなかった。女の子の心があんなに豊かで、面白くて、眩しいなんて。」
「正直、あの道が永遠に続けばいいと思った。」
「君の言葉を聞いていると、俺の人生に初めて色が差した気がした。」
「でも同時に、俺は自分を激しく嫌悪した。」
「だって、僕はその直前に、鹿野遥の告白を受け入れたばかりだったから。」
「俺はずっと、父を憎んでいた。他の女に手を出して、母を裏切ったから。」
「でも気づけば、俺も同じように、鹿野遥を傷つける側に立っていた。」
「だから俺は、自分の欲望に飲まれないよう、何度も言い聞かせたんだ。」
「君を避けるようになったのも、君が近づくたび苛立ったのも、全部……」
「君には、抗いがたい引力があった。どんどん惹かれて、どんどん求めてしまう自分が、怖かった。」
「だから、俺は人生最大の過ちを犯した。」
「君を、海外に追いやったことだ。」
言葉の最後、時川徹の声はかすれ、痛みに濡れていた。
彼は私の手をそっと両手で包み、唇に触れさせながら静かに続けた。
「鳴……今日、僕は鹿野遥と結納を交わす。」
「でも、君は心配しなくていい。俺は彼女のことなんて、一度も好きになったことがない。」
「僕が見ていたのは、彼女の
「彼女を利用した。それは卑劣だった。でも、それで彼女の罪が消えるわけじゃない。」
「今日、僕は彼女がすがっていた